例えば、従来は紙の申請書でしか受け付けていなかったものをオンラインで申請できるようにしたり、紙で回覧していた稟議書をデジタルワークフローに載せ替えたり、あるいは健康診断の結果を紙で集めるのではなく、デジタルデータとして提供してもらったりといった変化が、総務の現場でも起こっている。
このように、紙で業務が行われているものをデジタルに変換していくことが、まず必要になるのだ。総務の現場では、ここで例示したものだけでなく、さまざまな紙を伴う業務が存在するので、足元からしっかりデジタル化を進めていこう。そして、このデジタイゼーションの積み重ねにより、デジタライゼーション、つまり業務環境やプロセスのデジタル化が実現されていく。
DXのための取り組みを進めていく上で往々にしてあるのが、手当たり次第にIT化して、誰も使わないシステムが存在していたり、使い勝手が悪かったり、矛盾したものが存在したり、いわゆる「合成の誤謬(ごびゅう)」が生じてしまうことだ。こうしたワナにはまらないためには、デジタライゼーションを進める前段階で目的を明確に定め、そのための業務環境・プロセスのデジタル化を愚直に行うことが重要となる。
これは何もデジタル活用だけの話ではない。総務業務を変革する上で持つべき意識にも敷衍(ふえん)できる。
新型コロナウイルスの感染が拡大する前に、「総務のDX」というテーマで、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の副会長である森戸裕一氏にお話を聞いたことがある。その際、森戸氏は「DXは、デジタルではなく変革が先にあるべきだ」として、「Transformation with digital」というキーワードを出された。「何を目指すのか、それはなぜなのか」という問題(What・Why)があって、それを実現するために、どのようなテクノロジー・ツールを導入するのか、どのように活用するのか(How)――この順番で考えることが重要ということだ。
本記事の冒頭で挙げた質問は、解決すべき問題を飛ばしてしまい、「How」だけを考えている状態であり、手段が目的化している。本来のDXとは、森戸氏の話の通り、まず「What」から始まるべきなのだ。
そうなると出てくる疑問が、総務は一体何を目指してDXを行うのか、ということである。これはある意味、総務の存在意義にも関わる重要な問いである。
100社の企業があれば、100通りの「What」があっていい。目指すべきものや姿は、それぞれの企業の経営理念や経営目標にひもづくものなので、なかなか断定はできないからだ。ただ、今の社会情勢や、今後目指すべき総務の価値向上という点を考えると、以下の3つが「What」として成り立つのではないだろうか。
(1)社員のエンゲージメントが向上する多様な働き方の実現
(2)VUCA時代を乗り越えるための組織作り
(3)全社DXの起点となる「戦略総務」へのトランスフォーメーション
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