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創業以来初の「うなぎパイ」生産休止にもめげず、春華堂がコロナでつかんだ“良縁”地域経済の底力(4/5 ページ)

» 2021年08月05日 10時12分 公開
[伏見学ITmedia]

浜松の食をアピール

 この取り組みは副次的な効果も生む。春華堂は地元・浜松の農業に対するつながりも強化することとなった。

 例えば、あったか農場と協同で、遠州落花生を育てて、調理する “体験型”オーナー制落花生栽培や、静岡県温室農業協同組合と静岡クラウンメロンのイベントを開催するなど、枚挙に暇ない。

 コロナ禍で浜松の農家も苦しい。そうした人たちの声に耳を傾けるにつれ、地域の生産物を広めたい思いが日増しに強くなっているという。近隣旅行であるマイクロツーリズムのような企画を検討し、浜松の食を深く知ってもらう企画も浮上しつつある。春華堂の担当者は「一体になって浜松の産業を盛り上げたい」と意気込む。

ある医師からの手紙

 「コロナが運んできた縁といえば、こんなこともあった」と山崎社長は明かす。

 3月、工場の操業休止がニュースになった直後、新潟のある医師から手紙が来た。そこには「うなぎパイを100万円分買いたい。それを、コロナの患者を受け入れている病院に配っていただけませんか」と書かれていた。

 すぐにお礼の電話をして、医師と話をしたところ、「通販されていないと聞きました。ですので、なるべく静岡、愛知県以外の地域に届けてほしい。コロナが明けたら、うなぎパイを受け取った医療従事者たちは感謝の恩返しに、春華堂の工場に遊びに行ってもらいたいのです」という。春華堂が困っているのを知って、困っている人同士が100万円でWin-Winになればいいという考え方だった。

浜松駅構内の売店。うなぎパイの販売地域は限られている(写真:筆者撮影)

 「ありがたいことに、こんなタイガーマスクみたいな人がいるんだ」と山崎社長は感心したが、好意に甘えることはせず、いったんは断った。

 「ありがたいお言葉ですが、われわれではなくて、お弁当を作っている会社とか、もっと助かる方々は大勢いるのでは」と山崎社長が伝えると、「それは違う。春華堂さんがいま困っているので、助けたいし、医療従事者も助けたい」と譲らなかったという。

 そこまで言ってくれるのであればと、心意気に感謝し、提案を受け入れて、販売エリア外の病院にうなぎパイを送った。

 この出来事とは別に、春華堂も自発的に浜松市内のいくつかの病院や、首都圏の介護施設、子ども食堂などにお菓子を寄付していた。自分たちにできることをやる。これは社訓でもあるからだ。

どんなに辛くても最後は笑顔に

 春華堂には創業以来、「三惚(さんぼ)れ主義」という企業理念がある。

一、土地に惚れること

二、商売に惚れること

三、家内に惚れること

 地域や周りの人を大事にしよう、会社も愛そう、家庭も大切にしないといけない。どれかがひとつ欠けても駄目ですよという教えである。

 これを山崎社長の代になって「三笑主義」と変えた。

一、笑顔があふれる会社であること(家族)

二、笑顔が交わる地域であること(土地)

三、笑顔を創るお菓子を提供し続けること(商売)

 仕事や人生でつらいときがあるかもしれないけど、最後は必ず笑えるように、みんなで、笑顔で楽しくやりましょうというのをメッセージに込めている。

 「菓子って、多くの人たちに笑顔を届けることだと思う」と山崎社長は断言する。これが日々の思考の下地になっているため、コロナ禍の寄付も特別なことをやるという感覚ではない。地域や人々への貢献は、浜松で130年以上も商いを続けている春華堂のノブレス・オブリージュなのだろう。

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