累計販売数15万セット 捨てる野菜から生まれた「おやさいクレヨン」が売れ続けるワケハウス食品や富国生命ともコラボ(2/3 ページ)

» 2021年08月06日 12時10分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

きゅうり・トマトは使えない。クレヨンと野菜・果物の相性に苦戦

 「野菜や果物を使ったクレヨンを作ろう」。アイデアが固まったのはいいものの、クレヨンを作った経験はもちろんなかった。YouTubeでクレヨンの作り方を紹介している動画を発見し、見よう見まねで自作するところからのスタート。

 野菜を液状にしたり、練りこんでみたりと工夫を凝らす中で、野菜を粉末にするとクレヨンへの着色率が高まることが判明した。一段落かと思いきや、また大きな壁にぶつかることになる。

 「野菜や果物の種類によってクレヨンに合うものと合わないものが出てきました。特に果物は糖分が多く、ダマになってしまうためサラサラしたパウダーになりません。きゅうりやトマトなど水分を多く含む野菜は着色性が弱いため使えず、クレヨンの色味が制限されてしまうことが分かりました」(木村社長)

 クレヨンは赤や青などのはっきりとした色が好まれる傾向にあるものの、野菜や果物から人工的な色を出すのは難しく、青色に関しては野菜や果物には存在しない色だ。最終的に、赤色はりんごのちょっとくすんだピンク色で代替し、青色を入れるのは諦めた。

 YouTubeの動画を配信していた名古屋の工房「東一文具」を訪問し、野菜や果物の粉末でクレヨンに着色できることを確かめた木村社長は、青森県内で食品加工業も手掛ける農家を訪ねた。その畑の片隅で、見た目は少し悪いが、食べられるであろう野菜が置いてあるのを発見する。おやさいクレヨンに廃棄野菜を使おうとひらめいた瞬間だった。

市場に出せずに廃棄されてしまう野菜を使おうと思いつく(画像提供:mizuiro)

 「試作品の段階では食用として販売されている野菜や果物を使っていました。ただ、食べられる野菜を文房具にすることに抵抗感がありました。農家に野菜の粉末を仕入れられないか相談に行ったときに畑の片隅に置かれている野菜を見て、市場に出回らない野菜を使うことでコストも抑えられて、罪悪感も小さくできるとひらめきました」(木村社長)

 農林水産省の調査によると、18年の日本の食品廃棄物は年間2531万トン。その中で本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間600万トンに上る。これは国民1人が毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのと同じ計算だ。市場に出せない野菜や果物を使うことで、食料廃棄問題へのアプローチにもつながる。

年間600万トンの食品ロスは、日本人1人当たりが毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのと同じ計算になる(出所:農林水産省「平成30年度 日本の食品ロスの状況」)

 開発期間は13年7月から約6カ月間。「もったいない」野菜や果物を使い、環境に優しいサステナブルなクレヨンが完成した。今日では、SDGsや食糧廃棄問題などにも注目が集まり人々の意識も少しずつ変わってきている。しかし、当時はまだ環境に配慮した行動を取る消費者も企業も多くなかったと推測される。おやさいクレヨンの勝算はあったのだろうか。

 「正直、勝算はあまり考えていませんでした。おやさいクレヨンを使って一儲(もう)けしようとも思っていません。子どものころから環境問題への関心が強く、自然を残しつつ生活するために自分にできることはないかという意識が商品に反映されたと思っています」(木村社長)

 木村社長の思いが乗ったおやさいクレヨン。決して「時流に合った商品」とはいいにくいが、どのようなきっかけで累計15万セットも売れるヒット商品になったのだろうか。

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