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赤字予想から一転、最高益 オフィス縮小ブームの中でオカムラが作り出した「需要」とは?オカムラの「新オフィス提案」に迫る(1/3 ページ)

» 2021年07月26日 12時00分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 2020年、新型コロナウイルスはビジネスの世界にさまざまな変化をもたらした。特に変わったのは人々の「働き方」ではないだろうか。新型コロナ感染拡大防止策として政府が出した出社制限要請を皮切りに、リモートワークの浸透、サテライトオフィス出社、ワーケーションなどビジネスパーソンの働き方は180度変わった。

 「働く場所」だったオフィスを縮小する企業が増加し、ビルにも空室が出始め、地方に本社を移転する企業も出てきた。オフィス関連市場に吹き付ける逆風は勢いを増すばかり。

 事務機・オフィス家具のオカムラも苦境に立たされていた。だが、蓋を開けてみると21年3月期通期の連結決算は、営業利益、純利益ともに過去最高。その裏には、コロナ禍で変化するオフィス需要をつかみ、育成したことや、中村社長自身が旗振り役となった内部改革があった。

中村 雅行(なかむら・まさゆき) 株式会社オカムラ代表取締役社長執行役員。1951年東京都生まれ。73年早稲田大学理工学部卒業後、岡村製作所(現オカムラ)入社。設計施工管理部長、経営企画部長、オフィス家具部長などを歴任。96年取締役 経営企画部長、2001年常務取締役 企画本部長、06年常務取締役 生産本部長兼第一事業部長、07年専務取締役 生産本部長を経て、12年6月代表取締役社長、19年6月より現職。

「本当に赤字かもしれない」と思った

――20年はコロナ禍でオフィス縮小の動きが活発になり、オフィス家具の需要はかなり落ち込んだかと思います。当時の状況を中村社長はどのように捉えていたのでしょうか?

 本当に赤字を覚悟していました。バブルが崩壊した90年代やリーマンショック後も赤字を回避してきたのに、ここにきて赤字かと肩を落としました。

 オフィスはガラガラで、出社率は2〜3割程度。オフィス縮小に伴い、オフィス家具の需要は減っていくだろうと思いました。

――そもそもオフィス家具の需要はどういうときに発生するものなのでしょうか?

 大きく2つあります。1つ目は「オフィスの新設」。本社が移転するなど大きく改装するときにオフィス家具をそろえる動きです。こちらはコロナ禍でも予定通り進んだため、業績にそこまで大きな影響を与えませんでした。

 業界においてより重要なのは2つ目の「買い替え需要」です。オフィス家具の買い替えは基本的に毎年同じ企業に発注し、切り替えはめったにありません。安定的な売り上げが期待できる需要がコロナ禍で完全に消えました。

――そんな中での過去最高益達成。この裏にはどういう動きがあったのでしょうか?

 要因は大きく3つあったと考えています。まず1つ目が「新しいオフィス需要を見いだし、ニーズにあった商品を展開したこと」です。

 政府の出社制限要請に伴い、ガラガラなオフィスが目立つようになりました。そこで経営者はオフィス縮小の動きに出ます。例えば、今まで4フロアだったオフィスを3フロアにする。1フロア当たりの収容人数が増えた分、オフィスのレイアウトを変更し、改装する需要が生まれました。これは新型コロナが発生しなければ、生まれなかった動きです。

 従来のオフィスの位置付けは、優秀な人材を確保するためのツールでした。企業はオフィスを増床し、働きやすい環境を整えるための改装投資を繰り返していました。

 コロナ禍で起こったオフィス縮小により、「オフィスは何をする場所なのか?」という根本的な問いが経営者の中で生まれました。21年の企業の設備投資動向を見ると「無人化」と「デジタル化」への投資比率が大きいことが分かっています。これらの動きが進むことで確実に働き方は変わり、オフィスに求められる役割も変わっていきます。伝票処理などの作業はデジタル化され、新しい事業を起こすための議論をする場としてオフィスが機能するようになる、そういった変革の入り口にわれわれは立っていると実感しました。

 そこで、オカムラは従来のオフィス家具販売から「ライトサイジング」という新しいオフィス提案にシフトします。

過去最高益を達成したオカムラの21年3月期決算(出所:オカムラ2021年3月期 決算資料)

――「ライトサイジング」とはどういう提案なのでしょうか?

 ライトサイジングは「オフィス機能と面積の適正化を図ることで働きやすさを向上させる」オフィス戦略です。

 従来のオフィスは主に個人のデスクと会議室で構成されており、オフィスに占める個人:共創空間の比率は7:3程度でした。今後は、5:5まで変化すると考えています。固定デスクは排除され、オープンスペースで社員が仕事をする。机や椅子は可動式になり、気軽に集まれるカフェラウンジではフラッと集まった社員が新しい事業構想を語り合う。オフィスは社員の創造力を育み、引き出す場に変わっていきます。

 オカムラが考える最新のオフィス事例として、東京・渋谷スクランブルスクエアに「CO-EN(交縁)ラボ」があります。20年6月に開設し、会議室の代わりに棚で仕切られた半個室を設けているほか、駅などに設置されている電話ボックスのような個室スペース「テレキューブbyオカムラ」(以下、テレキューブ)を用意しました。

新オフィス提案ライトサイジングの事例「CO-ENラボ」(画像提供:オカムラ)

――20年6月開設は、コロナ禍のスピードとしてはかなり早いですよね。実際にライトサイジング提案ではどのような商品が売れたのでしょうか?

 CO-ENラボに置いてあるテレキューブや、机と椅子を仕切りで囲った「ドレープ」の売り上げが伸長しました。オフィス家具買い替えの需要はなくなりましたが、利益率の高い新商品が好調でした。

 ライトサイジングは20年夏頃から提案を始めています。秋ごろに日本企業全体でオフィス改装の動きが盛り上がり、需要の伸びを実感しました。

 「経済や社会に大きな変動が起こったときは必ず不連続で新しい需要が生まれる」。私はそう考えています。社会の価値観が変わるため、既存商品の売り上げは落ちます。一方で、時代に合った新しいコンセプトを持つ商品は売れ始めます。

 「世の中がどちらに向いているのか」を注視するだけでなく、自分たちが「需要」という新しい芽を育て市場をけん引していく。そのための提案や新商品開発が何よりも重要です。

オフィス改革の需要にマッチした「テレキューブ」と「ドレープ」(画像提供:オカムラ)
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