クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2021年08月09日 10時50分 公開
[池田直渡ITmedia]

避けられない価格上昇

 さて、仮にこの排除主義が進むとするならば、国際的な圧力に中国共産党が屈服してレアメタルの生産を巡る不適切な事々が是正されるか、でなければ、中国製原材料などが禁輸措置の対象となるだろう。それは現在のレアメタル価格構造の崩壊を意味する。

 価格上昇が許容されるのなら、少なくともリチウムとニッケルは一度閉山に追い込まれた世界各国の鉱山が再稼働したり、新規に開発されたりして供給量的にも何とかなる可能性が高い。ただし、時間はそれなりにかかるし、まともな環境対策コストや労働者の健康対策コスト分価格は必ず上昇する。

 そしてコバルトはもっとずっとやっかいだ。コバルトの埋蔵量の国別ランクを見ると、トップはコンゴ民主共和国の49%、2位がオーストラリアの14%、3位がキューバの7%、4位がフィリピンの4%、5位がザンビアの4%という具合でコンゴに著しく偏っている。

世界のコバルト埋蔵量と、コバルト鉱石生産量(出典:JOGMEC メタルマイニング・データブック2017)

 そのコンゴは政情が極めて不安定だ。30年前にルワンダから飛び火した反政府軍と政府軍の内戦状態が、いまだに続いており、世界最貧国のひとつに数えられる。

 レアメタルは、反政府軍と政府軍どちらの勢力にとっても、軍資金を賄うために極めて重要な産物で、どちらの支配下になるかによらず、子どもたちが採掘に従事させられて搾取される構図が続いている。あるいは両軍の影響が及ばない地域では、反社会勢力が両軍に代わって搾取を続けるという本当にひどい有様である。

 先進諸国では、これらを人道問題と捉え、コンゴからのコバルト購入を禁止する動きもあるが、現地の搾取されている人たちからは、食って行けるのは採掘の仕事があるからとの声も出ている。確かに他に食う手段があるなら搾取の構造は定着しない。他に食う手段がないのだ。もう本当に一筋縄では行かない状態である。

 ESGは、こうした原材料を使うバッテリーメーカーやEVメーカーに投資を促しているようだが、環境のエコロジーでも人道のソサエティでも貿易ルールのガバナンスでも、山積する問題を放置したままEV用バッテリーメーカーに集中的に投資するなど、ESGの理念からいえばあまりにも切れ味鋭いブラックジョークである。

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