おじいちゃんIT人材が爆誕!? AI分野で、どんな業務を任せているのかシニアの長所を生かす(2/3 ページ)

» 2021年08月13日 12時00分 公開
[酒井麻里子ITmedia]

シニアの「真面目さ」「日本語力」を最大限に生かす

 シルバー人材を集うため、協力を仰いだのが八戸市シルバー人材センターだ。20年に同センターと派遣契約を締結、PCの利用経験者を対象に募集を行った。実際にシルバー人材による業務を開始したのは、同年3月から。担当するのは「AIアノテーション」と呼ばれる作業だ。

 アノテーションとは、AIの学習方法の一つである機械学習において、目的に沿った規則性や特徴を正しく学習させるために必要なデータを作る作業のこと。具体的には、画像や言葉に対して、それを定義するタグを付けていく作業を指す。例えば、花の画像に対して“あさがお”“あじさい”といった種類を示すタグを付けたり、日本語に対してその意味を示すタグを付けたり――といった具合だ。

 単調な作業ではあるものの、そこには根気が求められ、正しい日本語を使えることも重要となる。アノテーション業務にシルバー人材を活用することを決めたのは、シニア世代の多くが持っている「真面目さ」と「日本語力」がこの作業に適しているとの考えからだという。

 業界内では、アノテーション業務は海外に委託するのが一般的だ。同社もシルバー人材を活用する以前はベトナムに業務を発注していたが、現在は国内だけで完結させているという。

 コスト面ではベトナムの方に優位性があるにもかかわらず、国内でのシルバー人材活用に踏み切った背景について榊原氏は、「ベトナムにも日本語を扱える人は多くいます。しかし、あくまで日本語を扱う作業なので、やはり日本人のほうがより正確に作業ができますよね。それがAIの精度向上、自社の企業力強化につながると考えました」と話す。

 確かに、日本語の意味などを定義する日本語アノテーションは日本人が作業したほうが効率的なのは理解できるが、画像アノテーションは海外委託でも問題なさそうに思える。しかし、その点についても榊原氏は「例えば花の画像に対して正確な名称でタグ付けするには、日本語の花の呼び方を豊富に知っている必要があります。やはり日本人が作業したほうが質の高さに期待ができます」と、国内で業務を進めるメリットを強調する。

紙マニュアルを配布 相互に教え合う雰囲気づくりも

 業務開始に当たっては、事前研修を実施することに加え、紙の作業マニュアルを配布したり、シルバースタッフ同士で互いに教え合う雰囲気づくりをしたりと作業環境を向上することにも取り組んできた。

photo 和気あいあいと働ける雰囲気づくりにも配慮する(出所:リリースより)

 研修ではAIに関する専門的な説明は行わない。代わりに、例えば花の画像に対する作業なら「写真から花を検索するアプリで、あなたが作業したデータが使われるんです」といったように、アノテーションしたものがどう活用されるかについての説明は時間をかけて実施するという。

 こうすることで、ITに詳しくないシルバー人材であっても、業務を自分ごと化して考えられるようになる。これらの取り組みは、そういった効果により作業効率を上げることが狙いだ。

 ちなみに、雇用形態は派遣となり、月曜から木曜の好きな曜日を各自が選んで勤務する。現在は12人のスタッフが業務に当たっており、男女比は半々程度。年齢層は65歳前後が多く、最年長のスタッフは70歳だという。

リテラシーの高さは予想以上、テレカンも問題なし

 IT業界内でシルバー人材を活用するケースは前例がほとんどなく、同社の取り組みはかなり挑戦的なものだった。AIアノテーション業務はWordやExcelが使えればこなせる程度の作業だが、PCを扱える人を対象に募集することになるため、当初は「そんなスキルを持つシルバー人材が本当にいるのだろうか」という懸念もあったという。

 しかし、蓋を開けてみるとそれは杞憂に終わった。「予想以上に適応力の高い方が多く、問題なく進められています。期待以上の仕事と言えるのではないでしょうか」(榊原氏)

 八戸のオフィスで業務を開始してから1カ月ほどで、コロナ禍によりリモートワークへ切り替えを余儀なくされたが、その際にも大きな混乱はなかったそうだ。リモート環境下でのコミュニケーションにはテレビ会議システムを利用。必要なツールをインストールしたPCを支給することで、問題なく意思疎通が取れているという。

photo 社員からの業務指示などにはテレビ会議システムを使う(出所:リリースより)

 ちなみに、既存の若手社員にもシルバー人材雇用の影響がある。

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