行動経済学を実践するとき、ある特定の手法だけを前面に打ち出し続けると、やはり受け手側が「またこのやり方か……」と構えてしまい効力が薄れてしまうことがある。
例えば、一時期「○○でNo.1!」「△△でNo.1!」とNo.1であることを連呼するプロモーション手法が流行ったが、今ではあまり見られなくなった。
これは行動経済学的に言うと、物事や事象の「ある目立つ特徴」に引きずられて評価が極端にポジティブもしくはネガティブに振れてしまう人間心理の傾向を示す「ハロー効果」を用いている。しかしこの手法だけをひたすら前面に打ち出し続けた結果、やがて人々の間で「またNo.1か」「どこもかしこもNo.1だらけだ」と飽きられてしまい、当初のような効果を発揮しなくなった。
そこで楠本氏は、単一の手法だけでなく複数の手法をうまく組み合わせることを推奨する。
「行動経済学の標準的な教科書では、個々の理論や手法を一つ一つ取り上げながらそれぞれの使い方や効果を詳しく解説していますが、ビジネスの実践においては単一の理論だけを用いても他社との差別化を図れませんし、受け手側にもすぐ気付かれてしまいます。従って、複数の理論を組み合わせて独自の戦略を編み出すことで、受け手側に容易に気付かれない施策が可能になります」
こうしたやり方の典型例として、同氏は「生命保険のセールストーク」を挙げる。よく「いついつまでに保険に加入しないと利率が不利になります!」「お客さまが○○歳の今が加入に最適なタイミングですよ!」という売り文句が用いられるが、これを行動経済学の観点から考えると、まず「いついつまでに」という基準を設定することで前出の「アンカリング効果」を狙うと同時に、「人は得することより損をすることに過大に反応する傾向がある」という「損失回避性」の理論も応用している。
さらに「人は人気が集まっているものに対して興味を示してしまう」という「バンドワゴン効果」を狙って「他のお客さんも皆このタイミングで加入しているんですよ!」と売り文句を重ね、最後に「お客さまは合理的に考える頭のいい方ですから、当然このタイミングで契約しますよね!」と畳みかけて相手の「一貫性の原理」(一貫して「合理的に考える人間」だと相手に思われたい)に訴えかける。
このように、生命保険の典型的なセールストークには、行動経済学のさまざまな理論が複合的に組み合わされていることが分かる。こうして相手の感情・心理のさまざまな側面に働きかけることにより、どれか一つが効かなくても別の何かが効いて成約まで持ち込める可能性が高まる。
「今後行動経済学のビジネス活用が進み、消費者側がその手法を用いたマーケティングメッセージに慣れてくるにつれ、企業側にはより工夫を凝らした多面的なアプローチが求められてくるのではないかと思います」(楠本氏)
知らないと損? 続々とビジネス活用が進む「行動経済学」の光と闇
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