マーケティング・シンカ論

知らないと損? 続々とビジネス活用が進む「行動経済学」の光と闇現場で使える行動経済学【前編】(1/5 ページ)

» 2021年08月19日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]
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 この数年で「行動経済学」というキーワードが注目を集めるようになった。

 大半のビジネスパーソンは行動経済学の名前は何となく聞いたことがあるものの、その中身については「何だか新しい経済学の理論らしい」「心理学の手法を取り入れらしい」といった曖昧な理解にとどまっているのではないだろうか? ましてや、自身の日々の仕事や生活とどのように関わるものなのか、ピンとこない人が大半だろう。

 しかし博報堂コンサルティングの楠本和矢氏(執行役員、HR Design Lab.代表)によれば、水面下では企業のマーケティング戦略や経営戦略策定における行動経済学の応用が着々と進みつつあるという。

行動経済学の潮流

 楠本氏は「現在、行動経済学が、マーケティング分野で最も注目を集めているトピックの1つであることは間違いありません。さまざまな企業から、行動経済学の理論を自社のビジネスの実践に落とし込むための施策について相談を受けています」と話す。

楠本和矢氏(博報堂コンサルティング執行役員、HR Design Lab.代表)、2020年11月に行動経済学について解説した『トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口』(イースト・プレス)を出版した

 そして「行動経済学とは何か?」という学習フェーズは既に終わり、行動経済学をビジネスに生かす実践フェーズに入りつつあると説明する。マーケティングや商品開発、接客などビジネスのさまざまな領域において、それぞれの分野の専門家たちが、行動経済学の知見を自身の専門領域に生かすための具体的な検討や実践をそれぞれの現場で始めているのだ。

 行動経済学は、2017年に第一人者であるリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことを皮切りに、話題になった。行動経済学に関する書籍の出版が相次ぎ、メディアで取り上げられる機会も増えた。

 また日本では19年に経済産業省が、セイラー教授が提唱する行動経済学の新たな手法「ナッジ」を経済政策に取り入れるべく、「METIナレッジユニット」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げたことも大きな話題を呼んだ。

 このようにノーベル賞や経済産業省といった権威のお墨付きを得たこともあり、世間一般での行動経済学の認知が一気に広がることとなった。現在は「行動経済学ブーム」とでも呼ぶべき状況で、中には行動経済学の手法を商品設計に取り入れていることを堂々とテレビCMでうたう生命保険商品まで登場している。

 ただし、前述の保険商品はまれな例で、行動経済学を取り入れたことを公表する企業は多くない。一般の生活者やビジネスパースンが知り得るのは氷山のほんの一角にすぎないという。なぜなのか。

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