例えばサービスを申し込む際に、“不要な”オプション機能の欄に初めからチェックが付いていることがある。
「もし不要なら外してください」「1カ月だけ契約してもらって、その後すぐに解約してもらえば大丈夫です」と説明を受けるものの、大抵の人はいちいちこれらのチェック欄の内容を精査することもなく、そのままの内容で契約してしまう。楠本氏によれば、ここでは行動経済学の知見があまり望ましくない形で活用されているという。
「行動経済学では『ヒューリスティック』と呼ばれていますが、『人は短絡的にぱっと判断しがちである』という傾向を逆手に取っています。また『人は最初に与えられた情報を基準として捉えて判断する傾向がある』という、いわゆる『アンカリング効果』を用いて、初めからチェックが付いてる状態が標準であるという印象を与えています」
このような手法や類似の手法は、実際のところさまざまなサービスに用いられており、「どこまでが倫理上セーフで、どこから先がアウトか」という線引きをするのは難しい。しかし楠本氏は、「人の心の隙を突くことで、“不要な”ものを買わせるというやり方は、やはり悪意があるのではないでしょうか」と疑問を呈する。
「明確な線引きができないからといって、何をやってもOKというわけにはいきません。行動経済学をビジネスに活用しようと考える者は、『倫理的に正しい使い方をしよう』という意識を強く持つ必要があります。そうした意識を全く持たずに行動経済学を使うと、間違いなくエスカレートして正しくない道に逸れていってしまいます」(楠本氏)
記事の後編(「明日から使える! 行動経済学をマーケティングに生かす『4つの類型』」)では、企業が行動経済学を実務に活用する際に押さえるべきポイントについて解説する。
明日から使える! 行動経済学をマーケティングに生かす「4つの類型」
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