「こうした心理状況に置かれている人に対して、いくら論理的な説得を試みたところでほとんど効果は期待できません。そうではなく、接種を推奨する側も同じように、相手の心理や感情にうまく働きかけるやり方が有効だと思います」
そうしたアプローチの一例として、同氏はSNSを通じて人々が「ワクチンを接種する“ソーシャルグッド”な自分」をアピールできるような仕掛けを提唱する。
14年に、ALS(筋萎縮性軸索硬化症)治療研究支援の寄付を募るために、バケツに入った氷水を頭からかぶる動画をSNSに投稿する「アイスバケツチャレンジ」のムーブメントが世界中に広がった。人々のこの行動を行動経済学の観点から解釈すると、自身のイメージの一貫性を保ち続けたい(ソーシャルグッドな自分であり続けたい)と願う「一貫性の原理」や、多くの人が問題視している社会問題を自分も同じく共有したいと願う「同調バイアス」が働いていると見てとれる。
コロナワクチン接種も同じく、一貫性の原理や同調バイアスの理論を応用することで、人々の「ワクチンを接種することでソーシャルグッドな自分でいたい」「そのような自分をほかの人に見てもらいたい」というインサイトに訴えるのが有効なのではないかと楠本氏は提唱する。
「例えばSNSのアイコンに特定の絵柄を取り込むことで『ワクチン接種で社会貢献しているすてきな私』をアピールできるようなムーブメントを仕掛けるなどして、人々の『ソーシャルグッドな自分でありたい』という感情にうまくアプローチする方法が有効だと思います。ただしその実践に当たっては、ワクチンを接種しない人に対する差別が生じないよう十分配慮する必要があるでしょう」(楠本氏)
楠本氏は、行動経済学を実践に持ち込む際に、真っ先に肝に銘じておくべきこととして「高い倫理観」を挙げる。
「行動経済学の効果は強力なだけに、悪用すると顧客や消費者をだますことになりかねませんし、結果的に企業自身もレピュテーションリスク(企業の否定的な評判が広まること)にさらされてしまいます。従って行動経済学を使って商品やサービスを提供する側には、高い倫理観が求められます」
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