直接的に褒めても響かないこともある。自信がない人や、疑り深い人は、「おべっかなんじゃないか」と勘繰るかもしれない。そこで活用されているのが通称「つぶやき褒め」だ。
「例えば、運転しているとき、本人に聞こえるか聞こえないかの微妙なトーンで『(運転)結構うまいな』とつぶやくんです。『心の声がつい出てしまった』というイメージなので、本人の方を向かずに言うのがポイントでしょうか。面と向かって言われていない分、本音っぽく響きます。もちろん下手なのにうまいとは言いませんが、自信をつけてほしい、モチベーションを上げてほしいというタイミングには効果的です」
続いて、八田さんイチオシの「第三者褒め」。
「『そう言うたら、A先生がアンタの運転は丁寧でええ言うとったで』『えらいうまなったらしいやん。B先生が感心しとたで』。このように、他人の言葉を借りて褒める方法です。僕は人が言った内容を伝えるだけなので楽ですし、本人のやる気アップ効果は絶大です」
確かに、他人を介して褒められると、ダブルでお得な気持ちになる。自分の知らないところで、自分の良い話題が上っている。このことに気を悪くする人はいないかもしれない。「第三者褒め」は、対生徒だけではなく、従業員同士の潤滑油としても有効に働くという。
「生徒を褒めるだけではなく、生徒に対して教官を褒めることもあります。『アンタ、A先生が担当なん。あの人はえらい優秀やで』『B先生は優しいし、指導が上手いんやで』。うちは担任制なので、自分のことじゃなくても“自分の先生が褒められた”という事実はうれしいものです。仮に、担任に反発していたとしても、『そんなにいい先生なのか。次はちゃんと話を聞いてみようかな』という気持ちにもなります。ついでに、教官本人の耳に入れば従業員同士の関係も良くなりますよね」
そして、注意を与えたいときに効果を発揮する「もったいぶり褒め」もある。
「『全体的に、運転がえらいうまなってきたなあ。そやけど、一つだけ惜しいとこがあるわ』といった具合です。こうなると、相手は『え? それって何ですか?』と前のめりになります。教えてほしいから、聞き入れる体制が自然とできる。そこで初めて、『ここでスピード落とすともっと良うなるで』と、注意を与えます。
以前であれば、『スピード落とさんか!』でおしまいでしたね。どちらも伝えたいことは同じですが、言い方一つで相手の聞く姿勢がここまで変わるものかとあらためて驚きました」
叱って覚えさせるのか、褒めて「覚えたい」と思わせるのか。後者の方がお互いにとって良いことは考えれば当たり前かもしれないが、指導に夢中になるあまり、忘れてしまうこともある。これらの褒めるノウハウは、企業の人材育成の場でもそのまま活用できることばかりだ。
しかし、「いやいや、褒めてばかりで本当に人が育つか?」と思う人も当然いるはず。クレームを入れられないため、生徒数を伸ばすため――「生徒のご機嫌取りなんじゃないの?」なんて、邪推してしまわないこともない。感覚だけでなく、客観的な効果はあるのだろうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング