褒める、褒める、褒める! 三重の名物自動車学校に聞く“アゲて”伸ばす人材教育の極意(1/3 ページ)

» 2021年08月27日 08時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

 「君、すごいなぁ」――こんな一言だけで、人は驚くほど前向きになれるもの。そんな人間の愛すべき単純さをうまく利用して、一躍、名物自動車学校となった場所がある。南部自動車学校(三重県伊勢市)だ。

 褒めることで信頼関係を構築し、叱咤を激励にうまく変換させることで鬼教官の怒鳴り声が飛び交う場所が一変。卒業生の事故率大幅減、生徒数県ナンバーワンの笑顔あふれる自動車学校に生まれ変わった“ほめちぎる教習所”に、人材育成に生かせる褒めるテクニックを聞いた。

“ハラ”が怖くて叱れない? ならば「褒め」に振り切ってみませんか

 ここ数年、学校でも職場でも“叱って伸ばす”教育方針はすっかり時代遅れだ。こと会社においては、人前で怒鳴ったりした日には「ハラスメントだ」と指をさされかねず、下手すれば自分のキャリアが終わる。

 もちろん、職場に横行する理不尽な言動は容認すべきではないが、「やりづらい世の中になったもんだ」とため息をついている“昭和な人”もいるのではないだろうか。“ほめちぎる教習所”こと南部自動車学校も、かつては怒る指導が日常だったという。

photo 南部自動車学校で業務課長を務める八田宜彦さん。業務課長とは、学校における教頭先生のような立ち位置だというが、現在も生徒の指導は続けている。取材はオンラインで実施

説教部屋の常連、鬼教官の苦悩

 自動車学校は、指導の延長線上に命を預かっているとも言える。だからこそ、教官はいつだって真剣だ。業務課長の八田宜彦さんも、一生懸命になるあまり指導が熱くなって、言葉がきつくなってしまうことが多々あったと話す。

 「上司が、『八田君、ちょっと応接間に来てくれへん?』って呼びに来るんです。応接間の別名は、“説教部屋”でした。ああ、また生徒からクレームが入ってしもた……。呼ばれるたびに、落ち込みましたね」(八田さん)

 「このままじゃ、いかん」。指導方法に悩んでいた八田さんと時を同じくして、自動車学校=教官に怒られる、そんなイメージを覆したいと考えていたのが、南部自動車学校の社長である加藤光一さんだ。加藤さんは、かつてハワイ旅行で出会ったジェットスキーインストラクターの褒め上手な指導に感銘を受け、「褒めて伸ばす」効果を、身を持って体験。自動車学校に生かせないか長く検討していたという。

 そこで2013年2月に踏み切ったのが、“ほめちぎる教習所”になるための、教官の指導方法変革だ。

photo 南部自動車学校は、自ら“ほめちぎる教習所”を名乗り、「褒めて伸ばす」をコンセプトに掲げる(出所:リリースより)

試して発掘! “ナンブ流”の褒め方とは?

 では、実際にはどのような取り組みを行っているのだろうか? 学校と名がついているとはいえ、自動車の教習所である。マニュアルがあるわけではなかったため、自動車学校における褒め方にはどのようなものがあるのか、個々で地道に試す日々が始まった。

 「半年から1年後くらいでしょうか、『みんなが試して効果があった褒め方を持ち寄ろう』という話になったんです。各々が実践した内容をプリントアウトして、マニュアルを作成しました。それを眺めながら朝会を開いて意見交換をしたのですが、『なるほどな』と思う褒め方が詰まっていましたね」(八田さん)

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