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なぜ、7割超の日本企業は「五輪・緊急事態」でもテレワークできなかったのか元凶は「IT」ではない(5/5 ページ)

» 2021年08月25日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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柔軟性の高い制度を導入しやすくなる

 働き手が自律的に仕事できるようになると、「いつまでに」「何を」すればよいかを見通した上で動ける余地が増え、意思を持って業務をコントロールしやすくなります。こうなると、休みが取得しやすくなるというメリットも生じます。このメリットは、週休3日制や裁量労働制のような柔軟性の高い働き方を機能させる決定的な要因になり得ます。

 一方、他律的な業務設計だと「その日の仕事が終わって帰ろうと思ったら、上司から想定外の仕事を振られて残業した」といった事態が日常的に起きてしまいます。そのような企業で、週休3日制のように休暇を増やす制度を導入したとしても、休みの日に振られてくる業務を予測できません。自分が休むことで、その分のしわ寄せが他の同僚たちに行ってしまうかもしれません。そんな心配が生じる企業で休暇を増やす制度だけ導入しても、安心して休みを取ることはできないと思います。

 また、裁量労働制に至っては、裁量を上司が握っているような他律的な業務設計だと、そもそもの趣旨に反します。仕事の終わりを働き手自身が決められなければ、想定外の業務がかさんで残業過多になり、健康を害するような事態を引き起こしかねません。

「テレワーク・コーティング」だけでは生き残れない

 企業を取り巻く環境は、日々すさまじいスピードで変化しています。しかし、テレワーク実施率が横ばいになっている状況からも分かるように、働き手が自律的に仕事をコントロールできるようなゲームチェンジに挑んでいる企業は、残念ながら今のところあまり増えていないようです。

 マネジメント側の立場からすれば、ゲームチェンジするのは大変なことです。これまでの仕事を大きく変えるのはとても勇気がいるでしょう。しかし、いつまでも他律的な業務設計をしていては、テレワークだけでなく、週休3日制も裁量労働制も、あるいは今はやりのジョブ型への移行もかないません。

 変化をチャンスに変えていく企業と、変化に飲み込まれていく企業との差は、今この瞬間もどんどん開いています。ゲームチェンジを伴わない、うわべだけの「テレワーク・コーティング」でお茶を濁し続けているようでは、もはや生き残れない時代になっているのです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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