東海道新幹線「のぞみ」のビジネスパーソン向け「S Work車両」とは何か杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)

» 2021年09月03日 08時05分 公開
[杉山淳一ITmedia]

JR東日本も実証実験を実施

 新幹線のビジネスパーソン向けサービスについては、JR東日本が先んじて実証実験を2期にわたって行った。1回目は21年2月の平日、2回目は6月14日〜7月16日の平日だ。いずれも東北新幹線で、1回目は対象列車が限定され、使用車両(号車)が統一されていなかった。2回目はすべての「はやぶさ」が対象となり「1号車」に固定されたため分かりやすくなっていた。

 利用方法は「対象車両と座席を無料開放する」だった。ほかの車両の指定席を購入した人であれば、誰でも譲り合って利用できる。座席は5列のうちA席・C席・E席を推奨、つまり隣の席を空ける。一部の列車では協賛企業のリモートワーク支援ツールを貸し出して体験できた。

 auのWi-Fiルーター、パナソニック システムズソリューションズ ジャパンの「WEAR SPACE(ノイズキャンセリングヘッドフォン&パーティション)」と骨伝導ヘッドセット、エプソン販売のスマートグラス。伊藤園からは緑茶飲料の試供品が提供され、車内にはヤマハ提供の情報マスキング音発生装置が設置された。わざと雑踏音を流して会話音声や打鍵音を紛らわせるという。トイレのダミー水流音発生装置のように、聞かれたくない音をかき消す。

 この実験は混雑する列車では難しい。列車の利用が激減したいまだからこそ可能だ。空いた列車を無駄にしないという意味で有意義だった。しかし、1両まるごと無料開放という施策は無理筋だ。来るべき新型コロナウイルス後には難しい。だからこそ、この実験の成果は今後に生かされることになるだろう。もう少し現実を見据えた3回目の実証実験があるかもしれない。

 JR東日本が東北新幹線でビジネス需要の実証実験を実施した背景は分かりやすい。東海道新幹線と比較してビジネス需要が小さいからだ。開拓しがいがある。東北地方は観光資源が多い一方、人口も少なくビジネス需要も小さい。しかし、北海道新幹線が札幌に延伸すると風向きが変わってくる。関東〜札幌の旺盛なビジネス需要を見越して、航空便にないサービスを提供したい。

 航空機内でもノートPCは使える。一部の機材でWi-Fiサービスもある。しかし電子機器は機内モードにすべしと法律で決まっており、通話はできない。短時間だけれども、それでは困るというビジネスパーソンはいるだろう。何しろ短時間では仕事に集中した頃に着陸してまう。一方、新幹線は4時間だ。仕事に使える時間も、休憩する時間もある。

 航空機になくて新幹線にあるもの。それは「ビジネスに使う時間」である。所要時間が長いという短所が、時間を有意義に使うという意味では長所になりえる。JR東日本はそこに気付いたと思う。

JR東日本の新幹線オフィス実証実験は1号車をフリースペース化する仕組みだった(出典:JR東日本報道資料

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