とはいえ、とはいえ、レトルト食品を温めるだけのアイテムは、この世に存在しない。ライバルは電子レンジとガスである。同僚に「こんな商品を考えているけれど、どうかな?」と聞いて回ったところ、東京オフィスで働く人たちからは「いいねえ。欲しいかも」といった声があったものの、大阪と名古屋で働く人たちからは「うーん、微妙」「そんなモノ、いらないでしょ」など否定的な意見が相次いだ。
ちなみに、アピックス社は東京、大阪、名古屋に拠点を構えている。それにしても、なぜ「東京OK」「大阪、名古屋NO」なのか。答えは「在宅勤務をしているかどうか」である。
先ほどご紹介したように、東京ではテレワークを実施していたが、商品を構想しているときに、大阪と名古屋の人たちはまだ出社していたのである。彼ら・彼女らにとって「お湯を沸かすこと=面倒」と感じることができていなかったのだ。
しかし、その問題は時間が解決する。その後の感染拡大を受けて、大阪と名古屋もテレワークが導入され、徐々に共感する人が増えていく。特に、若い人から「一緒につくりましょうよ」という声が広まっていったのだ。レトルト亭のメインターゲットは20代後半から40代の独身男性をターゲットにしているので、若い人からのこうした参画表明は、開発担当者として自信につながったのではないだろうか。
社内で「つくろう!」という声が高まっていき、上層部の承認も得た。レトルト食品が売れている状況を考えると、商品化はできるだけ速いほうがいい。しかし、そのスピードを減速させる出来事が待ち受けていた。コミュニケーションである。
同社の製品は中国の工場でつくっていて、担当者は打ち合わせなどで月1回ほど足を運ぶ。実際に現物を見て、細かなところはその場で指摘する。だが、しかしである。新型コロナの感染拡大によって、対面で会うことは不可能に。リモートでのやりとりになるので、どうしても伝わりにくいところがでてくる。さらに、中国ではレトルト食品を楽しむ文化が定着していないので、図面を見せても「ん? なにこれ?」「どうやって使うの?」といった反応で、なかなか前に進まなかったのだ。
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