成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題年功賃金・終身雇用の合理性と限界(1/2 ページ)

» 2021年09月09日 07時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
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本記事は、ニッセイ基礎研究所「成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題−年功賃金・終身雇用の合理性と限界」(2021年9月7日掲載、著者:総合政策研究部 研究員 清水 仁志)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


1―年功賃金、終身雇用の合理性

 終身雇用とは、定年までの継続雇用を前提とした雇用慣行であり、年功賃金とともに戦後以降の経済発展を支えた日本的雇用慣行の柱である。これらの関係を説明するためによく用いられるのが、定年制について述べているラジアー(1979)である(*)。

 ラジアーの理論では、企業は労働者が若いときは生産性よりも低い賃金を支払い、それ以降は生産性よりも高い賃金を支払う年功賃金が合理的だと述べている。労働者が若いときの生産性と賃金の差は企業の預り金として蓄積され、それ以降の生産性を上回る賃金支払いによって取り崩される。全体でみれば入社から定年までの間で労働者が生み出す総生産価値と労働者に支払われる総賃金の現在価値はバランスする。

 さて、総生産価値と総賃金が等しいことは、常に生産性と賃金を一致させた場合にも成り立つ。それにもかかわらず年功賃金を採用するのは、労働者の不正を防止するためである。労働者は定年まで企業に預り金を預けており、もし不正をすればその一部が回収できなくなる可能性がある。そのため、生産性と賃金を一致させた場合よりも、年功賃金を採用した場合の方が、労働者は長く一生懸命働くことになる。

(*)Lazear, Edward P. (1979) “Why Is ThereMandatory Retirement?”, The Journal ofPolitical Economy, Vol.87, No.6, pp.1261-1284."

2―年功賃金、終身雇用の限界

 近年、産業界を中心に年功賃金、終身雇用の限界に関するコメントが相次いでいる。先のラジアーの理論から考えると、その背景には、いくつかの要因が挙げられる。

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