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「日本は技術があっても、ビジネスで負けてしまう」 元官僚が米Amazon社員になった理由米国で感じた悔しさ(3/3 ページ)

» 2021年09月16日 07時00分 公開
[小林可奈ITmedia]
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「あうんの呼吸」が通じないからこその工夫 

──グローバル企業の米国本社というと、さまざまな方と一緒に働いていらっしゃるのですよね。

竹崎さん: そうですね。Amazonに入って驚いたことが、メンバーの多様性が本当に広く、だからこそDEI(Diversity,Equity,Inclusion)を積極的に推進していることです。

 Amazonのユニークなところとして、社内文書には基本的にPowerPointを使いません。視覚的な情報でのメッセージを伝え、口頭の発言で補うものなので、参加できなかった人が後から見ても正確には理解しづらいというのが理由の1つです。

 また、多様なメンバーが集まっているため、説明が少ないPowerPoint資料では一人ひとりが違う理解をしてしまう可能性があります。こうしたミスコミュニケーションを起こさず、100人が読んでも同じ理解ができるようにということで、文章の資料を用意しています。

 打ち合わせでは、冒頭5分か10分くらい、その資料を読み込む時間を取ります。ちなみに資料には、読む側の先入観を排除するため、作成者の名前は入れません。「偉い人が言うことならば賛成」というわけではないですし、「マイノリティーの人が言うことだから後回し」にすることも当然あってはいけません。誰が言ったかではなく内容そのものに集中して、フェアに議論をするためのルールです。

photo 多様なメンバーがいるため、ミスコミュニケーションを起こさないことが重要(画像はイメージです。提供:ゲッティイメージズ)

──総務省をはじめとして、これまでさまざまな組織を渡り歩いて来られた中で、Amazonの組織としての特徴はどのような部分にあるとお考えですか?

竹崎さん: 大きく3つありますね。

 1つ目は、オーナーシップという考え方でリーダーシップ・プリンシプルの1つです。日本語で言うと、当事者意識や主体性ですね。今までいろんな組織で働いてきた中でも、このオーナーシップが圧倒的に強いのがAmazonだと思っています。3カ月のインターン中の学生さんや新入社員の方も含めて、Amazonでは一人ひとりがリーダーで、主役です。

 何か解決しないといけない課題があったときに「これは僕の仕事じゃありません」ということはないし、あるいは会議で新入社員だから発言しないなんてことは全くなくて、どんな立場の方でも、積極的に発言することが求められます。オーナーシップの概念が浸透している組織だなと思います。

 2つ目は、こちらもリーダーシップ・プリンシプルの1つですが、インベント&シンプリファイです。イノベーションみたいに何か新しいものを生み出して、それをなるべく簡単にして広げていきましょうという考え方です。

 日本の組織だと、個人がどれだけ頑張ったか、夜遅くまで働いたかが評価される環境が残っているところも多いと思うのですが、個人の努力や才能に依存して結果を出すような、周りが再現できないやり方は続きません。それよりも、誰がやっても結果が出せるような仕組みを作っていこう、というものです。これは、ヒューマンエラー対策にもなります。

 例えば、僕のいる小売部門で年に1回の大きなセール(プライムデー)のときに、値段を手動で入力するとどうしてもミスが生じて、損失につながってしまうでしょう。しかし、そこで個人を非難することは、まずありません。そこにエネルギーを向けるのではなく、トラブルを個人の問題ではなくチームの問題として捉え、やり方自体を変えていく。手入力をやめて自動計算にするとか、ダブルチェックの目を入れるとか。そうして仕組みを作れば、アクシデントが起きる確率は減らせます。

 何か問題が起きたときに、後ろ向きに嘆くことはあまりなくって、どうやったら次の失敗が起きないかにエネルギーを向けていく姿勢があります。

 3つ目は、世界に何十万人の従業員を抱える大きな組織なのに、意思決定や成長のスピードが遅くなっていないことです。組織が大きくなるとそうしたスピード感はなくなっていくものですが、毎年2桁以上の成長率を達成していますし、社内にもスタートアップのように「新しいことをどんどんやっていこう」という雰囲気が残っているんですよね。

 どうしてだろうと考えると、ジェフ・ベゾスが創業して以来、Amazonは「Day One」という「毎日が始まりの日だということを、皆が意識してやっていこう」という価値観を持っています。惰性で物事をやっていくのではなくて、1日1日、新しいことにチャレンジをして、昨日よりも一歩でいいから先に進めていくという文化が浸透しているからだと思います。

──多くの企業が理念やビジョンを掲げていますが、それを社員の価値観レベルにまで落とし込めている企業はまれです。Amazonではなぜ、リーダーシップ・プリンシプルが浸透しているのだと思いますか?

竹崎さん: 一言で言うと、実践しているからというのに尽きると思います。日々の議論の中で、リーダーシップ・プリンシプルに言及する場面は珍しくありません。「私はあなたの意見に賛成していません。僕たちにとっては利益が得られるアイデアかもしれませんが、リーダーシップ・プリンシプルの1つ、『カスタマーオブセッション(お客様を中心に考える)』の観点から、お客様のためになることではないと考えるからです」というように、実際に言葉に出しながら議論をしています。

 年に1回、従業員同士でお互いにフィードバックを向けあう場があるのですが、そこでもリーダーシップ・プリンシプルに照らして「あなたはこの項目を行動に移せたときに、もっとよくなると思います」というふうに伝えあいますね。

 そもそもの入社時に、リーダーシップ・プリンシプルにマッチする人、素質がある人を採っているというのも大きいと思います。

──今後のご自身のキャリアに関して、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?

竹崎さん: 日本の良いものを世界に広げていくこと、また1人の日本人としてグローバルにチャレンジしていくことができていて、今の仕事にはすごく満足しています。お客様にとってより付加価値がある商品を、どうしたら企画・開発していけるのかをより突き詰めて考え、メーカーさんと一緒に実現をしていきたいと思っています。

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