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「日本は技術があっても、ビジネスで負けてしまう」 元官僚が米Amazon社員になった理由米国で感じた悔しさ(2/3 ページ)

» 2021年09月16日 07時00分 公開
[小林可奈ITmedia]

 メーカーと小売りの関係には「モノを作るのがメーカー、売るのは小売り」という伝統的な役割があります。メーカーは良いモノを売るまでが仕事で、その先の「どうやってお客さんに届けていくか」は小売りが考えることだよね、と役割分担されている。

 しかし、Amazonのアプローチは全く逆です。「モノを売ればメーカーの役割が終わる」のではなく、Amazonがモノを買ったその後も、お客さんに対して商品の説明や販売プロモーション、宣伝広告をどのようにしていくのか、どのぐらい在庫をそろえて届けていくのかなど、メーカーと小売りが一緒になって進めます。あるいはメーカーに権限を委譲して、メーカーが自分たちでお客さんのことを考えてリードしていけるようにしています。

 そのアプローチがすごく新鮮で、これから世界に広まってくる最先端のやり方だと思い、自分で実践したくなったのがきっかけです。

 あとはもう1つ、Amazonの本社で働いてる日本人は数が少ないことに、寂しさや悔しさがありました。米国で経験を積む中で実感しましたが、日本の人たちには勤勉性や責任感など、いいところがたくさんあります。自分がしっかり活躍して、他の日本の方にも「自分たちはできるんだ」と思ってもらえる1つのきっかけになれたらうれしいなと考え、米国の本社で働くことを目指しました。

 5年ほどかけて50回以上応募しましたが、しんどいと感じたことはありませんでした。不採用という結果が来ても、取り戻せない失敗だとは考えていなかったからです。ポジションを変えたり、自分をレベルアップさせたりできればチャンスはある。

 この経験を話すと「心が強いんだね」「自分には真似できない」と言われることが多いのですが、日本のビジネスパーソンの方は失敗を怖がったり、失敗でないものを失敗と捉えたりしているなと感じます。やり直せるチャンスがあるのなら、失敗でも気にする必要はありません。そこはぜひ、日本の方にお伝えしたいですね。

──一度は日本法人(アマゾン・ジャパン)に入社して、そこから海外にも異動できる社内公募制度を利用し米国法人に移られたのには、そうした理由があったのですね。

竹崎さん: はい。いずれは米国本社に移りたいというのはアマゾン・ジャパンの入社の時から伝えていました。

 アマゾン・ジャパンでは1年3カ月働いて、インターナル・トランスファーという社内公募制度を活用しました。国内含め世界中のAmazonのポジションに応募でき、選考プロセスを得て、面接に通れば移れるいう仕組みです。

「自分が一番評価される環境」を探して

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

──Amazonの日本法人と米国法人をどちらも経験なさって、違いはありましたか?

竹崎さん: Amazonにはリーダーシップ・プリンシプルという、一人ひとりの従業員が全世界共通で持つべきとされる行動の指針があります。このような価値観やシステムはグローバルに共通なので、土台は全くぶれていないと思います。そのうえで、日米の細かな文化の差は面白い部分があるのかなと思いますね。

 日本の方は、例えばExcelでマクロを組んで誰でもボタン1つでできるようにするような、業務の効率化が得意です。米国では、今あるものを効率化するというよりも、「そもそも物事をよくするには、どうすれば良いのか?」とその一歩前に立ち返って、作り直します。また、米国の方々は小さい頃から自分が主役でやっていくことに慣れていて、発言やプレゼンテーションが得意ですね。国民性というのか、日米の文化の違いだなと感じます。

 日本や米国、アフリカ、東南アジアなどいろんな国がありますが、自分の良さが出せる文化の中で働くことが大切だなと思っています。

 日本のように、努力して夜遅くまで頑張ることが評価される国もあれば、逆にそれはあまり良いやり方ではないと言われる国もある。結果に対して評価されたい人と、結果に至るまでのプロセスを評価してほしい人ではマッチする国が違うかもしれません。一人ひとりが、自分の良さを一番実現できる環境はどこなのか、考えることが大事だと思います。

──竹崎さんにとっては、自分自身が一番評価される国は米国だったということですね

竹崎さん: そうですね。僕自身はもともと考え方が合理的というのか、結果から逆算して物事を考えるようなところがあるので、米国の働き方が肌に合うと思っています。

──逆に言えば、総務省にお勤めだった頃は、ご自身の良さはなかなか評価されづらかったということでしょうか?

竹崎さん: 以前の職場に対して、ネガティブなことを言いたい訳では決してないのですが……(言葉を選ぶ)……責任が重く、拘束時間は長く、残業もどうしても発生してしまう仕事だったので、負荷はやはりありました。大きな組織として動いているので、意思決定をするときに利害関係者の数が多く、50人以上の決裁を経ないと終わらないような複雑な状況もありましたね。自分自身がそこで力を発揮しきれたかというと、なかなか難しいところもあったのかなと。

 総務省には、人格者というのか、人間的な魅力がある方ばかりだったなと感じますね。都道府県庁や市町村庁、霞が関の他の役所、企業、NPOなど本当にいろんな方々と接する仕事なので、人間的に尊敬できる方が多かったと思います。

 それから、多くの方が「多少の困難や過酷な環境があったとしても、社会のためにやるんだ」という使命感や責任感を持っていました。

 以前の同僚も、私のことをすごく応援してくれています。お互いに自分の力を発揮できる環境で仕事ができているので、良かったなと思えているのかもしれません。

──現在は米国本社で、現在どのような業務を担当されているのでしょうか?

竹崎さん: 本社のフィットネス部門シニアベンダーマネジャーとして、アメリカの消費者の方々に世界中のあらゆるフィットネス関連商品を、どうしたら早くお求めやすい価格で届けられるかを考えて、メーカーさんと一緒に実現していくという仕事をしています。

──今のお仕事の中で、やりがいを感じられている部分はありますか?

竹崎さん: 商品を早く、お求めやすい価格で届けるというのは大事なことですが、そこにとどまらず、自分たちで手を挙げてやりたいことを広げていける環境があります。

 私の仕事でいえば、メーカーさんから商品を集めてきて販売するというだけではなくて、メーカーさんと一緒に新たな商品を作っていくことができ、すごく面白いと思っています。

 例えば、アマゾン・ジャパンに在籍していた時には、ヨガマットやダンベルを発売しました。既存のものと同じような性能でより安い商品や、処分の際に環境に悪影響を与える物質が出ないエコフレンドリーな商品を開発していました。

 米国本社に移ってからも、日本の取引先の方々から「どうやったらアメリカで自分たちの商品を広げていけるのか」とご相談いただくこともあります。世界中のメーカーとお付き合いしているので、日本のメーカーだからといって特別扱いはしませんが、日本の商品をグローバルに広げていくお手伝いができています。

 自分の仕事と日本の会社が持っているすごく有望な技術や商品がどうやったら一番うまくマッチするのかなということを日々考えるチャンスがありますね。今後、仮に私が独立して何かをやっていこうという時にも、大きな財産になってくるんじゃないかなと思っています。

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