小説『下町ロケット』やドラマ「スパイラル〜町工場の奇跡〜」など、町工場が舞台となる作品をたまに目にする。1960年代に日本の工業を盛り上げた町工場は、現在は時代の流れとともにその数を減らしつつある。下火になっているにもかかわらず、町工場を取り扱う作品が支持を集めるのは、事業再建や専門性の高い技術など、日本の「ものづくり力」を感じられるストーリーが埋もれているからだろうか。
ラジコンやミニ四駆のタイヤの製造を手掛けていた創業43年の町工場、寿技研(埼玉県八潮市)もその一つだ。約30年前のミニ四駆の爆発的ヒットに伴い、業績はうなぎ上りだったものの、ピークが去り売り上げはゼロに。
そこから、まったくの畑違いである医療分野に参入する。医師の手術用トレーニングキットを開発し、事業を再建した。現在は、新会社KOTOBUKI Medicalを立ち上げ、こんにゃくで作った臓器を開発・販売している。模擬臓器は売り上げ全体の約65%を占めるほどに成長しているという。
高山成一郎社長。1968年生まれ。国立室蘭工業大学機械工学科在学中に父が倒れて大学を中退し、家業である株式会社寿技研に入社。 以後、設計、自動機製作、金型、制御、プログラム、生産管理など幅広く経験を積み、現在は製品開発に生かす。「トレーニングキットも臓器も、最初はまったく売れなかった」と高山成一郎社長は話す。売り上げゼロに加え、リーマンショックで崖っぷちに追い込まれたにもかかわらず、なぜ異業種で成功することができたのか。その秘密を聞いた。
当時、寿技研は自動車や建築など幅広い企業と付き合いがある「何でも屋」の町工場だった。リーマンショックの影響で経営不振に陥り、顧客と揉めたことから「下請けでなく、自社製品を販売していかないといけない」と実感したという。
そうは決めたものの、何を売っていくかは決まっていない。そんな中、2013年ごろに医療機器メーカーに勤める友人から、「腹腔鏡手術の練習キットを作れないか」と相談が入った。
腹腔鏡手術とは、腹部の3〜5カ所に小さな穴を開けて、その中にカメラや切除器具を入れ、腫瘍を切ったり皮膚を縫ったりする手術だ。開腹手術よりも跡が残りにくいことや回復力の早さが評価され、2010年ごろには一般的な手術方法になっていた。
医療機器メーカーが作る腹腔鏡手術の練習キットは、40万〜300万円の高価なものが多かった。段ボールに穴を開けて、ホームビデオをセットするなど、練習キットを自作する医師もいたという。価格だけでなく、手軽さも足りていなかった。病院内のトレーニングルームなどに練習キットは置いてあったものの、利用予約などが必須。自宅やデスクでササっと練習するのも難しい状況だった。
寿技研が開発した腹腔鏡手術の練習キットは3パターンで、2万〜3万円。安価で持ち運びができる利便性の高い製品が誕生した。しかし、「最初は、全く売れなかった」と高山社長は当時を振り返る。
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