「遊ぶカネ欲しさ」ではない? ソニー生命「170億円事件」に浮かぶ大和銀行「1100億円事件」との意外な共通点古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2021年12月03日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

「大和銀行 1100億円事件」との意外な共通点

 170億円という過去の着服事例からは一線を画す被害金額から考えても、容疑者のソニー生命社員は生活費や遊行費のためではなく、何らかの組織的な事情が介在した結果犯行に及んだ可能性がある。それだけでなく、背後で指示をしていた黒幕や共犯の存在も疑われてきそうだ。

 では、今回の着服が私的流用ではないとしたらどのような要因が考えられるだろうか。

 可能性としては、不正な取引における損失穴埋めが挙げられる。従業員の不正のうち、被害額が100億円を超える事例のほとんどが、ビジネス上の失敗を穴埋めするための不正取引である。その中でも2つの事件を今回はピックアップしたい。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

不正事案その1:大和銀行ニューヨーク支店着服&巨額損失事件(83年・1100億円)

 まずピックアップしたい事例が1995年の大和銀行(現:りそな銀行)のニューヨーク支店で発覚した巨額の不正取引事件である。当時、米国債トレーダーであった井口俊英氏がもたらした11億ドル、当時の為替レートで1100億円にものぼる巨額損失によって、大和銀行は米国から別途巨額の制裁金がかけられただけでなく、米国からの退去命令も受けるといった三重苦に見舞われることとなった。

 同氏は、84年に初めて5万ドルを着服したものの、95年までそれが明るみに出ることはなかった。着服がバレずに気が大きくなったのか、その4年後には52万ドルを着服している。きっかけは変動金利債券の取引損失だ。損失が明らかになってトレーダーをクビになることを恐れ、同氏は書類を偽造するなどして、自己裁量の取引を行うようになった。この時井口氏はニューヨーク支店の実質的な支配人であったことから、その不正を指摘できる者が支店にはいなかったのだ。

 巨額のポジションは米国の巨大な債券市場を動かすには十分すぎるほどだった。彼が債券を売買するとすぐさまその手口は「トレーダートゥシ」によるものと看破され、徐々に身動きが取れないカモとなり、損失が膨らんでいった。

 結局、同氏はもはや1100億円にも膨らんだ損失をトレードで取り返すのは不可能と悟ったのか、当時大和銀行の頭取であった藤田彬氏に自白し事件が明るみに出ることとなったのである。

 この事件では、簿外取引の損失をケイマン諸島の法人に付け替えるという、いわゆる“飛ばし”が組織的に行われていた。この策は功を奏し、ケイマン法人に飛ばした損失は穴埋めが上手くいったようで、飛ばしから7年後に解散している。

 ソニー生命の事例との共通点は、大和銀行と同じタックスヘイブンであるバミューダ諸島の子会社を介した不正事案となっている点だ、どちらも事件発覚時には解散している点でも類似性がある。海外における関係会社において、どちらのパターンでも一人の従業員に大きな裁量が任されていた点も重なる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.