「遊ぶカネ欲しさ」ではない? ソニー生命「170億円事件」に浮かぶ大和銀行「1100億円事件」との意外な共通点古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2021年12月03日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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不正事案その2:ソシエテジェネラル不正取引事件(08年・7790億円・世界記録)

 ちなみに、従業員の不正が原因で会社に損害を与えた最も大きい金額は48億2000万ユーロ、当時の為替レートで7600億円である。その人物は同社のトレーダーであったジェローム・ケルビエル氏だ。同氏は本来、同じ商品の市場間の価格差に着目し、安い方を買い、高い方を売ることでリスクを極力抑えて利ざやを稼ぐという裁定取引を任されていた。

 しかし、同氏は片方のポジションを架空の取引に偽装するという手口で、裁定取引をしているとみせかけ実際はリスクを取ったポジションで取引を行っていた。ケルビエル氏の不正は2005年から07年までの株高の恩恵を受けているうちは明るみに出ることがなかったが、世界金融危機の発生した08年1月に不正が発覚、ポジションは精算されることとなった。同氏の築いたポジションを全て精算したあとに残ったのは7600億円もの損失だけだった。

 動機は「自分が成功し、金融の天才だと誰もが認めるようになると本当に信じていた」というもので、自己承認欲求の高まりが招いた事件であるといえる。

 ちなみに、同氏は当然ソシエテジェネラルをクビになったが、この解雇が不当であるとして逆に同社を訴えた。この訴えはなんと第一審で認められ、16年にはソシエテジェネラルに対してケルビエル氏に40万ユーロを賠償する判決を下したのである。理由は、ソシエテジェネラル側はケルビエル氏の不正取引を把握していながら、利益が出ていたため見過ごしていたと認定されたからだ(なおその後、ソシエテジェネラル側は控訴している)。

 この2つの事例の他にも、銅の不正取引で3000億円近い損失を出した住商巨額損失事件などが有名だ。ビジネスの中でも金融商品がらみの不正取引は被害額が大きくなりやすい傾向がある。

 ソニー生命の事例は、現段階では動機などが明らかになっていないものの、過去事例と照らし合わせれば、「遊ぶ金欲しさ」や「ほんの出来心」といった典型的な着服事案とは明確に区別されるべき犯罪である可能性が高い。全貌の究明が待たれるところである。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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