EMSって胡散臭さい? 科学で脱却の「SIXPAD」に聞く、次の狙いとは?家電メーカー進化論(2/7 ページ)

» 2021年12月10日 07時00分 公開

効果不明の機器が横行していたEMS市場

 EMS製品の開発を検討し始めたのは、今から10年前の11年。同社がさまざまな健康関連機器や美容機器を開発する中では自然な流れだった。しかし当時販売されていたEMS機器の中には、効果に関するエビデンスがなく、派手な広告を打ち出す商品が横行していたという。

 「EMS自体は18世紀から歴史があり、1960年代にソビエト連邦の科学者がトップアスリートの筋肉増強に使って注目を集め、現在も医療分野でリハビリ目的で使われています。しかし、当時はちょっと胡散臭いというか『本当に効くのか』という声が多くありました。広告でも『10分で600回の腹筋』『EMSで脂肪燃焼』といった誇大広告がたくさんありました。そんな業界に参入していいのか、という議論は社内でもありました」(熊崎氏)

 ちょうどその頃、MTGも参加している日本ホームヘルス機器協会でも、EMS機器に関する安全基準を策定しようという動きが始まった。業界で市場が整備されるのなら、と参入を決めたという。

2人のプロの協力でSIXPADが完成

 しかし大切なのは、信頼できる製品を作ることだ。そこでEMSの世界的権威である京都大学 森谷敏夫名誉教授を訪ねた。そこで森谷教授が長年の研究で得た、周波数20ヘルツの電気刺激が最も効率的に筋肉トレーニングできるという事実を知る。

 「20ヘルツというのは、1秒間に20回の電気刺激を送るということで、80ヘルツなら1秒間に80回という意味です。当時の市販製品には60ヘルツや80ヘルツ、100ヘルツなんて製品もありました。

 一見すると数字が大きい方が効きそうな気はしますが、筋肉は筋繊維が弛緩収縮を繰り返すことで張力を発揮します。高い周波数では収縮と弛緩を繰り返すことができず「筋肉がただ踊っているだけ」の状態になって、効果を期待できないのです」(熊崎氏)

周波数が高い右側では、時間が経つにつれ波形が真っ直ぐになっている。これは筋肉が弛緩せず、収縮したままの状態であることを意味する

 この森谷教授の研究結果を取り入れ、SIXPADでは20ヘルツの周波数を採用している。しかし低周波になるほど、電気刺激による痛みが伴うという問題があった。痛みの改善のほか、簡単に装着でき、持ち運びもできる製品を目指して、試作品を森谷教授に確認してもらうことを、何度も繰り返したそうだ。

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