会社のトップが大好きな「戦国武将に学べ」が、パワハラ文化をつくったと感じるワケスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2022年01月11日 11時52分 公開
[窪田順生ITmedia]

戦国武将は「クソ上司」

 断っておくが、「戦国武将に学べ」という考え方を批判・否定しているわけではない。偉大な先人から学べることがあるというのは大賛成だ。ただ、それがあまりにも度が過ぎて自分自身を戦国武将と重ねるようになってしまったことで、日本社会にさまざまな弊害が出ているのではないかと言いたいのだ。

 例えば、日本の経営者が「中世の戦争指導者」を長くロールモデルにし続ければ当然、日本の組織マネジメントには「中世の人権意識」がビタッと定着する。それが日本の「パワハラ文化」をつくっているのではないか、と個人的には考えている。

武将好きとパワハラ文化の関係(画像はイメージ。提供:ゲッティイメージズ)

 ご存じのように今、日本ではこれまでは泣き寝入りをするか、自殺をするかでカウントされなかったパワハラ被害者が続々と声をあげている。経団連が21年12月に公表した調査結果によれば、職場でパワハラの相談が増えている大企業は4割以上に上っているという。

 では、このような「日本のパワハラ文化」の源流はどこにあるのか。「小泉・竹中の新自由主義が悪い」「昔はこれくらいのシゴキは当たり前、日本人が軟弱になったのだ」など、いろいろなご意見が飛び交っているが、同じような「現象」は戦国時代にさかのぼって確認される。

 実は戦国武将のほとんどは今でいう「クソ上司」だ。後世の歴史家に「徳で治めた」とか「民衆を大切にした」とヒーロー扱いされているような武将であっても、部下や兵士を人間扱いしていない。自分の命が助かるためには容赦なく捨て石にしたし、気分次第で命を奪い、命令に従わない者はあっさり処刑したと記録が残っている。

 例えば、日本の経営者の「尊敬するリーダーランキング」でトップになることも多い、織田信長のパワハラはすさまじいものがあった。歴史家の山岸良二氏は『東洋経済オンライン』(17年2月7日)で信長が、食べている餅を「お前らも食え」と馬糞が転がる路上にぶちまけ、部下たちが泥だらけの餅を貪ったというエピソードを紹介し、部下たちをどんな理不尽な要求であっても「絶対服従」させていたと指摘している。

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