直前になって2年間猶予の電子帳簿保存法、企業はどう対応すべきか? 専門家が語る(3/3 ページ)

» 2022年01月19日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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2年の期間をどう活用するか

——当初は帳簿の保存は紙か電子の選択制だった。今回の混乱は、電子受領書面の電子保存を義務としたところにある。選択肢を設けるというやり方はなかったのか?

柴野氏 もともとは選択制だった。しかし、紙を許容すると結局みんな紙でやってしまうのが実態だった。例えば請求書でいえば、送り手は基本電子で送りたいはず。なぜ電子で送らないかというと受け手が紙でもらいたいから。受け手が紙でもらいたいというのは、書類の処理を全部紙でやっているから。その余波が発行企業にまでいってしまう。

 受け手である後ろから緩和するという政府の流れは正しくて、多数派を電子に持っていかなくてはならない。

——今回、紙と電子の二重管理を嫌い、取引先に「電子ではなく紙で送ってくれ」と伝えた企業もあったという。2年の猶予によって、こうした動きは回避されたが、このまま行くとまさに電子化に逆行する事態になりかねなかった。

SansanのBill One Unitプロダクトマーケティングマネジャーで公認会計士でもある柴野亮氏

柴野氏 そういう話を聞いたのはゼロではない。ただ、「紙で送ってくれ」は発行側に対してやさしくない。そしてこれは我々の責任でもある。入口と出口がしっかりと電子保存しやすい状況となったのに、入口と出口の間にある処理業務は、まだ紙で行う企業が多く存在している。この2年で処理業務も紙より電子のほうが効率が上がるということを伝え、しっかりと間となる処理業務の再構築を支援していきたい。

 実は現場の感覚でいうと、当初は、電子保存義務に対して例外措置が付くと思っていた。令和3年の税制改正大綱が出たのを見たときに、電子保存義務は厳しいだろうと思っていたが、それ以降の見解がなかなか出てこなかった。国税庁のコメントが出てきて、例外がなかったので、これは本気だなと。

小野氏 大きな話をすれば、企業がどうあるべきかを考えれば、紙に戻るという発想はないはず。メリットを本当に考えると、それは損する方向に行っているだけと分かるはず。「紙で……」は、対応に時間がない中での苦肉の策だったのだろう。

——2年間の猶予が認められたといっても、24年にはより大きなインボイス制度が控えている。こちらは、これまで請求書発行なしで済ませていた企業や個人事業主にとっても、請求書発行が実質的に義務となり、企業側も受け取って処理する必要がある。さらに当初は、適格事業者と非適格事業者が入り交じることも想定され、現場の混乱が予想される。発行側と受領側、それぞれどういう準備と心構えをしておけばいいのか。

小野氏 少しずつ進んでいたデジタル化がコロナで加速した。企業としては、デジタル化は実は多くのメリットがあって、経済的にもプラスであることを理解して、正面から取り組む時期に来ている。自社のやるべきことを具体的に洗い出して、足りないところは専門家に相談しながら、前向きに、着実に対応していってほしいと思う。

柴野 この2年をチャンスにしてほしい。仮に電子対応がうまくできなくても紙でしっかりと保存していれば罰則はない。まず試してみるということが、2年間の良い使い方だと思う。そして電子帳簿保存法とインボイス制度のそれぞれを個別で対応するのではなく、双方を視野に入れた体制をつくる準備が重要だ。

小野 智博 弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士・税理士

慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。

弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所後、米国カリフォルニア州に赴任し、Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として、経験を積む。帰国後はその経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。

2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。

2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。

DX関連事業については特に強みがあり、事業の立上げ・運営・販売促進・トラブル対応・海外展開まで、一貫してサポートできる体制を整えている。


柴野 亮 Sansan Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー/公認会計士

公認会計士の試験に合格し、PwCあらた有限責任監査法人へ入社。上場企業や外資系の会計監査、内部統制監査に従事。

2014年Sansan株式会社に入社。財務経理として、経理実務、資金調達、上場準備業務に従事。請求書がもたらす会社全体の生産性低下を解決するべく、「Bill One」のプロダクトマーケティングマネジャーとして、新たな請求書に関する業務のあり方を推進する。


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