カインズに売られた「東急ハンズ」は、なぜライバル「ロフト」と差がついたのかスピン経済の歩き方(5/7 ページ)

» 2022年01月18日 09時45分 公開
[窪田順生ITmedia]

名門企業あるある

 ロフトの成長を引っ張る安藤公基社長は、1987年に西武百貨店の一部門として立ち上げた時からの生え抜きである。ロフト1号店を出した渋谷では、既に78年から東急ハンズがあった。ロフトは完全に後発のチャレンジーだったのだ。そこで、安藤氏ら立ち上げメンバーは、ある差別化を決意した。

 「ハンズが目的買いなら、我々は見て回るだけで楽しい空間づくりを心掛けよう」(日経クロストレンド 20年06月26日)

 当時、ハンズは電車で行ける都市型ホームセンターでありながらも、郊外型に劣らない圧倒的な品ぞろえと専門性をウリにしていた。そんな「ハンズらしさ」に挑んでも勝ち目はない。そこで生まれたのが現在も続く「時代」や「トレンド」を柔軟に切り取るという「ロフトらしさ」である。

 『目的購買型ではなく時間消費型の売場創り、そこから生まれたのが『時の器』というコンセプトです。時代のニーズや空気感、トレンドなどをしなやかに切り取り、売場や商品を通じて提案していくことで、目的がなくても楽しめる店創りを心掛けました』(ロフト2023年リクルートサイト 社長メッセージ)

 実はこの「楽しめる」というコンセプトは時代の変化に強い。例えば、コロナ禍になれば、「おうち時間」をいかに有意義に過ごすのかということでコンセプトやガラリと変えられるからだ。

 しかし、東急ハンズはなかなかそれができない。「なんでもそろう」「専門性の高い店員は知らないことはない」というような機能性を何十年も追い求めてきたので、いきなりロフトの真似をしても「ハンズ ビー」のように中途半端になってしまう。

 「時代」や「トレンド」より、どうしても「品ぞろえ」や「プロのこわだり」を優先してしまう。心情的には応援したくなるが、「店主のこだわりの強いが喫茶店」が、スターバックスやコメダに客を取られてしまうのと同じで、どうしても利益のでない体質に陥ってしまう。「東急ハンズ」という偉大なブランド、看板の重さが、ビジネスモデルの「しなやかさ」を失わせてしまっているのだ。

 実はこういうことは「名門企業あるある」だ。「このこだわりを失ったら、わが社ではない」というような思い込みで、なかなか時代の変化についていけないのだ。

 そのような意味では、カインズに買収されたことは、東急ハンズにとって新たな成長につながる好機であるような気がしている。

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