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多くの人が勘違いしている!? 「英語を学ぶ」前に知っておくべきこと目指せ海外赴任(3/4 ページ)

» 2022年01月22日 05時00分 公開
[桂木麻也ITmedia]

英語上達の必勝法は「サバイバル経験」

 われわれはネイティブスピーカーにはなれないし、なる必要もない。同時通訳者のようなスキルも不要だ。ただビジネス上の目的を遂行するに足る英語力があればいいのだ。それにはどうしたら良いのだろうか。

 話す・聞くという能力を伸ばすためには相手が必要だ。こちらの言い分がすんなりと通じなかったり、もしくは突拍子もないことを言ってくる相手だったりすると、こちらの負荷はグッと上がるが、対応するスキルは向上するのである。その意味で最も効果的なのは、日本語が通じない世界でサバイバル経験をすることだ。サバイバルとは、英語を使わないと自分の処遇に悪影響が出たり、自分や家族の健康や安全が守れなかったりする状況に身を置くことだ。そして、冷や汗をかきながらも、何度もそのような状況を乗り越える経験をすることだ。

 ここで、自分の経験談をご紹介したい。

 私は20代後半から、米国とシンガポールで10年に及ぶ海外赴任をした経験がある。米国赴任の辞令が出た時、これで「バイリンガルになれる」と思った。しかしそうはならなかった。米国における3年間の勤務において、同僚は米国人であったが、日本人の上司がいたので彼に相談すれば業務上の問題は全て解決した。日本人同士でつるんでランチや飲み会に行き、日本人がたくさんいるアパートに住み、週末は日本人とゴルフ。そのため、米国人同僚との業務中の会話が、私にとっての英語の全てだった。これでは、何年たっても英語は上達しない。

 状況が変わったのは、米国からシンガポールに転勤してM&Aの業務を担当するようになってからだ。シンガポールは米国以上に濃い日本人コミュニティーがあるが、業務環境が全く違った。

 上司はシンガポール人で、M&A案件を遂行する日本人スタッフは私だけ。M&Aの交渉に臨むクライアントに同行して、私が交渉のサポートを一人で行うのである。M&Aという会社にとっての重要プロジェクトを任される担当者のプレッシャーは非常に大きく、だからこそ私の英語が原因でクライアントを不利な状況に置くことは絶対許されない。まさに「サバイバル」な環境だ。

 そこでまず私が心掛けたのは、全てのミーティングや交渉の場の司会を自分で行い、常に会議をリードするようにすることだ。こちらの語彙レベルは中学生ぐらいだが、だからこそ相手に主導権を握らせないように、知っている言葉を駆使してグイグイいくのである。交渉の最中、当然知らない単語や表現が出てくる。1〜2度であれば聞くことはできるが、回数が増えると相手にバカにされるし、クライアントからの信用も失う。

 そこで私は、意味不明の言葉が出てきた場合、自分の知っている単語に置き換えて相手に確認することを習慣付けた。例えば「jeopardize(危険にさらす)」という難しい単語が出たとしよう。話の文脈上、良い話ではなさそうだと思えば、「Are you uncomfortable?」や「Do you think it risky?」などと聞いてみる。相手が同意すれば、とりあえずその場の論点は分かるというやり方で、非常にうまくいった。もちろん今でも活用している。このような経験を積み重ねて、私は英語をマスターしていったのである。

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