「無人船」は実現するのか 横須賀で「船長なし」の小型船が出港したよ「実証実験」の結果(3/4 ページ)

» 2022年01月22日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

船を取り巻く環境

 通常、新三笠桟橋から猿島までは10分ほどで到着する。「であれば、無人にする必要なんてあるの?」と思われたかもしれないが、話はそれほど単純ではない。船を取り巻く環境を見ると、さまざまな課題があるのだ。

 現在、日本国内には旅客船が2000隻ほどあって、離島との交通手段として利用されているわけだが、問題は船員の数である。国交省海事局の調査によると、2000年以降、船員は3割ほど減少しているのだ(1万人→7000人)。また、高齢化も進んでいて、50歳以上が50%を超えている。さらに、海難事故に目を向けると、事故の8割がいわゆる“ヒューマンエラー”である。

 「船員が辞めていく→不足する→残った人たちの負荷が増す→船員が辞めていく」といった流れができると、事故が起きやすくなってしまう。こうした課題を解決するためにも、船の無人化は欠かせないわけである。そのために横須賀湾で実験が行われたわけだが、実は1〜3月にかけて無人船による航行は5カ所で予定されている。次も小さな船でやるのかなあと思っていたら、コンテナ船であったり、大型のフェリーであったり、水陸両用の船であったり。

各コンソーシアムが無人運航船の実証実験を行う

 ちなみに、大型フェリーを使っての実証実験は1月17日に行われた。大型フェリー「それいゆ」の全長は222メートルもあるので、個人的に「大丈夫なのかな」と思っていたが、無事に成功。2月に行われる実験では、カーフェリー「さんふらわあ しれとこ」が登場する。北海道の苫小牧から茨城の大洗まで航行し、距離は754キロメートル。時間は19時間ほどかかるので、「ちょっとやってみるか」といった軽いノリでできる話ではなくて、船の規模も距離も時間もハードな設定で実験が行われるのだ。

大型フェリーの「それいゆ」でも、無人運航実証を行った
赤外線カメラで障害物や他船を監視する

 プロジェクトの資料を見ると、「2025年に無人船を実用化させ、40年までに内航船の50%を無人にする」と書かれている。実用化まで3年ほどしかないが、本当に実現するのだろうか。日本財団の担当者に聞いたところ、4つのハードルがあるという。「技術」「法律」「コスト」「社会」である。

 1つめの「技術」について。実験で使われた小型船には3台のカメラを搭載して、GNSS(全球測位衛星システム)、AIS(自動船舶識別装置)などさまざまなセンサーを設置。「道路と違って海の上では障害物が少ないので、技術力はそれほど必要ないのでは?」と想像されたかもしれないが、船は風と波の影響を強く受ける。今後も実験を繰り返して、技術力を高めていくのだろう。

 船の航行は無人を想定していないので、「法律」を整備していかなければいけないし、普及させるためには「コスト」を引き下げていかなければいけない。「技術」「法律」「コスト」この3つをクリアーしても、国民が納得しなければいけない。事故が起きたときには誰かが責任をとらなければいけないし、「無人の船に乗りたいなあ」といった人が増えなければ、そもそもの計画がとん挫するかもしれない。そうなってはいけないので、関係者には難しい“舵取り”が求められることになりそうだ。

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