クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2022年01月31日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 昨年末の記事で、トヨタの「C+pod」について、限り無く全否定に近い評価をした。試乗する前に開発者とも話しているので、当人の顔が思い浮かんで、非常に気は重かったが、とはいえ、読者に本当のことを伝えないなら原稿を書く意味がないので、そこはもう正直に忖度(そんたく)なく書かせてもらった。

トヨタの超小型EV「C+pod」

 で、あれから、軽自動車未満の超小型モビリティのことをいろいろ考えた。出発点は間違っていない。そこらの道路を走っているクルマを見ると、そのほとんどが一人乗車だ。人ひとりの移動に1.5トンも2トンもあるクルマを動かすのは余りに効率が悪い。いまや軽自動車だって背の高いモデルは平気で1トンを超えてくる。だからもっとエネルギー効率の良い選択肢を用意しなくてはいけない。ここまでは明らかに正しい。

 だがしかし、一方で、わが国には本来その用途には軽自動車があった。これに衝突安全基準を適用するために、車両寸法を大きくして、その重量増加に対処するために元々360ccだった排気量を660ccまで引き上げてきた結果が、今の軽自動車の車両重量である。

 もし、その安全基準が過剰だというのであれば、それは軽規格を見直すのが本筋だ。軽自動車規格は放置したまま、その下に安全基準を緩和したクラスを作るのは歴史的経緯を見るとどうも整合性がおかしい。

超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?

 位置づけとして、上に軽自動車ありきでスタートする以上、超小型モビリティの仕様は軽以下である必然性がある、その結果、モーター出力も足りない。車高に対してトレッドもホイールベースも足りないという、クルマとして基本がおかしい規格ができ上がった。

 そうやって無理矢理小さくしても、車道の端を走って他のクルマに自在に追い抜いてもらえるほどサイズはコンパクトではない。50ccスクーターとはそこが違う。他のクルマと同一車線を混走させるしかないとなれば、結局一般道の法定速度である時速60キロまで出せないと交通の混乱を招く。高速道路の走行禁止だけがかろうじての防波堤である。

 いびつなディメンションのクルマを時速60キロで走らせるという条件で、無策に設計すれば転倒するに決まっている。それを「なんとかせい」と言われれば、タイヤに無闇にグリップを求めると危ないから低次元でアンダーステアを出してスリップさせるしかなくなる。加えてスライドが突然回復した際に、過大なロールをきっかけに転倒しないようにアシをガチガチに固めることになる。

 だからクルマとして乗り心地もハンドリングもダメなものが出来上がった。その上、ボディの衝突安全もある程度やらなくてはならないのでコスト高に振れる。軽以上に限られたスペースレイアウトに合理性を求めれば、ウェット路面で滑り始めると止めるのが難しいRRを選ぶのがベターになる。となると後輪のスリップに備えてVSC(横滑り制御機能)やTRC(タイヤ空転抑制機能)などのコントロールも必須でここにもコストがかかる。

 しかもこの超小型モビリティは、高齢者の運転免許卒業後のアシとしても期待されているので、高齢者事故対策の盛り込みも求められ、衝突軽減ブレーキは必須。こんなものを安く作れといわれたってできるわけがない。そもそも道路を走る以上、性能要件的には軽自動車とほぼ変わらないのに、ディメンションで不利な設定なのだ。C+podとはそういうクルマである。

 技術は魔法ではない。要するに超小型モビリティの規格そのものが、現場を無視して無理しすぎなのだと筆者は思う。本質的には行政の無策が呼び起こした問題だ。

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