クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2022年01月31日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

我が国の至宝、電動アシストサイクル

 では、この下のクラスをわが国で受け持っているのは何かといえば、そこにももう一つの至宝が眠っている。それは電動アシストサイクルである。子供から前期高齢者まで、老若男女が、免許も使い方の講習も必要とせずに当たり前に使いこなしている。実勢価格で見れば、下は6万円程度から、子どもを2人乗せられる17万円級、あるいは後期高齢者でも状況次第ではなんとか使いこなせそうな20万円級の三輪モデルまで、存在する。パーソナル電動モビリティがこんなに普及している国は他にない。

電動アシストサイクルの草分け、ヤマハのPAS「CITY-X」
ヤマハのPASには3輪のワゴンモデルもある

 電動アシストサイクルというと、すぐにシェアリングだ何だと話が出るが、放置車両問題や、手荒い扱いによる損壊など問題が多々あり、中国などではすでにシェアサイクルの会社がいくつも破綻している。写真は筆者がノルウェーのオスロー駅近郊で撮ったものだが、電動シェアサイクルもキックボードも、やはり放置問題は深刻で、トラックが日に何度か市内を巡回して、車両に仕込まれた位置情報発信器を元に回収して回るという体たらく。当然そこではCO2も発生するし、巡回の労働コストも料金に乗る。果たしてコレが効率の良い交通システムなのかどうかはかなり疑問の余地があった。

シェアサイクルについてまわる回収の問題

 にもかかわらず、スマホも使わず、ITを駆使したシェアも全く工夫していないわが国では、個人所有というごく当たり前のやり方でこの電動アシストサイクルの普及をすでに見事にやり遂げている。普通のやり方で成功していることの凄さをもっと認めるべきだし、アピールもすべきだ。

 考えてもみよう。例えば、米国なら近所のスーパーまで、CO2を排出しながらクルマで行くところである。わが国が電動アシストサイクルの普及でどれだけCO2を抑制しているか。普及台数を考えれば、その効果は途てつもないものになるだろう。しかもスマホでシェアだとか、クラウドで何とかなどという難しい話も何もいらない。おじいちゃんでもおばあちゃんでもいますぐ使える。

 例えば都内の移動など、平均移動速度でいえば、高速を使わない限りクルマとさほど遜色はない。労働に従事する年齢なら、時速にして15キロくらいは行けるだろう。上り坂でスピードダウンしない電動アシストサイクルは、平均速度の維持で非常に有利なのだ。レースウェアに身を固めたおっさんの乗る100万円のロードレーサーを、上り坂では食料品のエコバッグとこどもを前後に満載した主婦が颯爽(さっそう)と抜いていく。

 昨今のアシスト距離はもはや長大といっても良く、アシストを最強に設定しても廉価な通勤通学モデルですら50キロくらいのレンジを持つモデルはざらだ。お高いスポーツモデル、いわゆるe-bikeでアシストを弱めて運用すれば200キロ以上も走る。速度制限の範囲(時速24キロ以下)ならアシストも強力で、10キロ程度の移動は訳も無いし、ちょっと慣れれば30キロだって大したことはない。そう考えると、都市内の移動は、ほとんど電動アシストサイクルで事足りるはずで、これは脱炭素の日本モデルとして世界にアピールすべきポイントである。

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