しかし、である。新しい駅弁を完成させるために走り出したものの、ゴールのテープはなかなか見えなかったのである。食材は何を使えばいいのか、味付けはどうすればいいのか。「ああでもない、こうでもない」と考え、手を動かし続ける。試作品をつくって、崎陽軒の担当者に食べてもらったものの、ダメ出しが続く。特に「ご飯」については、最後の最後まで「OK」が出なかったのだ。
合格ラインは、米の味をしっかり感じられる状態にすること。そのためには、ご飯から出てくる水分を容器の経木が吸収して、冷めてもおいしく食べられるようにしなければいけない。まねき食品の工場でご飯をつくって、それを持って新幹線に飛び乗る。目的地は横浜である。崎陽軒の本社に足を運んで、ご飯を試食してもらうが、またダメ出し。1回や2回ではない。10回ほど試食してもらって、ようやく太鼓判が押されたのだ。構想から1年半の月日が経って、やっと駅弁が完成したのである。
試作を重ねて、崎陽軒からゴーサインが出たわけだが、姫路の工場ではなく、先方のキッチンを借りてつくることはできなかったのだろうか。交通費と時間の節約にもなるし。「それはダメです。レシピを見てつくるだけではなく、自社の設備でおいしいご飯をつくることができるのかどうか。同じモノを何度もつくって、同じ味を再現させなければいけないので、自社の工場でつくらなければいけません」(岩本さん)ときっぱり。
先ほど紹介したように、まねき食品は駅弁をつくっている会社である。しかも歴史があるので、これまで数え切れないほど「ご飯」を炊いてきたはず。素人の考えになるが、「であれば、弁当に入れるご飯をつくるのは、ちょちょいのちょいでしょ」と思ったが、それは大きな間違いだったようである。
シウマイ弁当を開けると、フタの裏にご飯粒がついている。「あ〜、もったいないなあ」と思って、お箸を使ってそれを食べる人もいると思うが、ご飯粒はついていなければいけないのだ。このことについて、ビジネス作家の中山マコトさんは次のように指摘している。
『崎陽軒のご飯は、通常の水で炊く方法ではなく、水蒸気を使って炊きあげる「蒸気炒飯方式」を採用しています。実はこれ、「おこわ」を炊くのと同じ炊き方なのです。炊きあがりのご飯が余分な水分を持たないように、水蒸気で炊き上げる。するとモチモチな食感が生まれ、弁当のフタにご飯粒がくっつく。これこそが、おいしいご飯の証拠なのです』(マネー現代 2020年2月29日)
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