なぜクルマには半導体が必要なのか? どうなるクルマと半導体のミライ高根英幸 「クルマのミライ」(2/3 ページ)

» 2022年02月17日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

半導体の正体とは何だ

 このように、クルマにとって半導体はなくてはならないモノであることはこれまでの話で分かっていただけただろうか。それでもこの半導体というモノ自体が何なのか、今一つクリアになっていない。さらに深層へと迫ろう。

まるで工業団地の夜景のようにも見えるが、これがCPUの内部に組み込まれるダイと呼ばれる材料。シリコンウェハー上に焼き付けられたトランジスタやダイオードなどの部品の集合体だ。道路のように見える線でカットして1つのCPUに使われる

 半導体は電子部品であり、その種類は無数にあるが、機能により大きく3つに大別することができる。1つはトランジスタで、信号や電流を増幅する役割を持っている。

 2つめはスイッチングで、電流を流したり遮断したりする機能がある。EVやハイブリッドの駆動モーターの電流を制御するインバーターに使われるのが、このスイッチングだ。

 3つめはダイオード、これは電流を整えるもので回路内の電気の流れを整えるほか、交流電流を直流に変換する場合などに利用される。光源として完全に普及したLED(発光ダイオード)も半導体の一種だ。

 トランジスタ、ダイオード、さらには電子回路として必要なコンデンサや抵抗、そして配線までもシリコンウェハー上に焼き込んだ集積回路がICで、アナログ回路として利用されるほか、デジタルな信号へと変換してCPUへ伝達するなどECU内で中継的な役割を果たしている。

 ICの機能を盛り込んだ回路をより微細化して作り上げたのがLSI(大規模集積回路)で、パソコンやスマホ、クルマのECUなどに使われる演算処理を行なうCPUは代表的なLSIだ。近年は微細化により省電力化や高効率化が著しく、PCやスマホの性能が加速度的に上昇している。

 ただし車載用の半導体は環境条件が厳しく、さらに地域によっては立ち往生することで乗員の生命が脅かされる可能性もあるため、まず何よりも信頼性、耐久性が重要で、半導体チップの高性能化は優先順位としては低い。

原料、材料、製造装置の多くで日本製が未だ優位

 かつて日本は半導体製造でも世界の首位に立っていたが、他国の国を挙げての価格競争に破れ、特殊な分野や特定の半導体以外は、輸入に頼っている状況になってしまった。けれども完成品としての半導体は海外メーカーに敵わないとしても、その前段階である原料や製造装置などの分野では、まだまだ日本メーカーは活躍している。

 輸出管理を厳格化したことで韓国政府が慌てた、半導体製造に欠かせないケミカル「フッ化水素、フォトレジスト、フッ化ポリイミド」のことはご存知だろうが、日本が強みを持っているのはそれだけではない。製造に必要なさまざまな素材や機械の多くで日本の材料メーカーや機械メーカーがアドバンテージを保っている。

 半導体のベースとなるシリコンウェハーについても、日本は世界需要の半分以上を供給している。より高性能なシリコンカーバイトや窒化ガリウム、よりコスト面で有利な酸化ガリウムといった新たな半導体のベース素材が開発され、実用化が進められている。

 しかし現時点でもシリコンウェハーの国内消費量は生産量の1割強に過ぎない。今後は国内での半導体生産を増やすことにも力が注がれるべきだろう。

シリコンウェハーの直径にも種類があるが、生成の関係上円形となるため、チップをどう効率良く作り出すか配置も重要となる。この小さな四角の1つ1つがダイとしてカットされるのだ

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