なぜクルマには半導体が必要なのか? どうなるクルマと半導体のミライ高根英幸 「クルマのミライ」(1/3 ページ)

» 2022年02月17日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

 改めていうまでもないのだが、EVやハイブリッド車は当然として、純エンジン車にとっても半導体は欠かせない部品だ。

 例えばクリーンディーゼルでは、1回の燃焼に5回前後の燃料噴射を行ない、燃料を有効に使ってトルクを引き出し燃費も向上させながら排気ガスを出来る限りクリーンな状態に近付けるという芸当をやっている。

 ミリ秒単位の制御とはいえ、コンピュータにとっては造作もないことだ。むしろそれに対応する燃料噴射装置の方が大変な忙しさだろう。

ブラックボックスとも呼ばれたエンジンECUをX線で撮影すると、内部の基盤がよく分かる。上に伸びるワイヤーで外部へのコネクターに接続されている。これはモーターサイクル用のECUだが、小型車用ECUもコンパクト化されており、基本的な構造は同様だ

 ガソリンエンジンでも複数回の燃料噴射を行なうし、その上スパークプラグの点火タイミング、吸排気カムシャフトのスプロケットを位相させてバルブタイミングを調整している。しかもその時点での車速やエンジン回転数や水温、油温にスロットル開度、さらにはアクセルペダルを踏み込む勢い(加速度)まで読み取ってドライバーの加速要求を判断し、必要な制御を行なうのだ。   

 その上、変速機の制御とも組み合わせて協調させることにより、スムーズで省燃費な走りを実現している。このためにはさぞかし高性能なコンピュータが必要だと思われるかもしれないが、ECUは専用機なので今どきのPCと比べれば、演算能力の高さはそれほど要求されないようだ。

 ECUだけに半導体が使われているのではなく、電子部品のほぼ全てに半導体が採用されている。ADAS(先進運転支援システム)の衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警告に使われているカメラに組み込まれているイメージセンサーやレーザーセンサー、ミリ波レーダー発信機も半導体によって構成されている。

 それ以外でも、例えばパワーウインドウのモーターにはワンタッチ操作を可能にし、トルク制御を行うためにマイコンが組み込まれている。そのため、昔のアナログ制御と違って年式などにより小変更があると、見た目は同じ部品なのに組み付けても作動しない、というケースが発生する。これはマイコンが組み込まれているからこその症状であり、最近のクルマの部品発注が車台番号によって正確に管理されているのは、このためでもある。

 半導体がクルマの随所に盛り込まれるようになったのは、機能を増やしていったためだけでなく、車内中に走る配線であるワイヤーハーネスを簡素化して、重量増を抑えようとしたことも大きい。アナログ時代はハーネスだけで100キログラムを超える高級車も出現したが、デジタル信号によりシリアル接続が可能になったことで、部品ごとに独立したハーネスから解放され、大幅な軽量化を実現させている。

 スロットルバルブとアクセルペダルは、現在ワイヤーケーブルではなく、電気信号に変換して伝達しているのはご存知だろう。今やブレーキやステアリング操作さえもドライブ・バイ・ワイヤーへとシフトし始めている。これによって、複雑で自由な制御が可能になる。これも半導体を利用しているからこそ実現できた技術だ。

 ヘッドライトユニットさえもモジュール化されて、ALH(アダプティブLEDヘッドライト=配光特性を複雑に組み合わせてハイビームでも対向車ドライバーに眩(まぶ)しさを感じさせない)など、ボディの末端にまで半導体が組み込まれている。

 なお余談だがヘッドライトが高機能化して半導体が盛り込まれたことで、クルマをハッキングして盗み出す事件も多発している。ヘッドライトにまで到達している信号線を利用し、メインのECUにアクセスしてドアロックを解除してエンジンを始動させ、わずか数分でクルマを盗み出すという手法だ。これは半導体を利用して車内の電子制御システムが高度化したからこそ起こる犯罪であり、セキュリティを高度化させて防ごうとしているが、いたちごっことなっている。

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