クレカ積立を大転換する楽天証券 楠雄治社長が語る狙いと背景金融ディスラプション(1/3 ページ)

» 2022年02月18日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 楽天証券の戦略が転機を迎えている。新規顧客を獲得する最大の武器だったクレジットカードによる投信積立について、ポイント還元率を従来の1%から、多くのファンドで0.2%まで引き下げる。この背景には何があったのか? 楽天証券の楠雄治社長に聞いた。

楽天証券の楠雄治社長

 楽天証券躍進の原動力の1つは、楽天カードを使った投信積立だ。2018年10月にサービスを開始し、積み立てた額の1%を楽天ポイントで還元することが人気を呼んだ。特に近年急速に増加した「楽天経済圏」にいる投資初心者をうまく呼び込むことに成功した。

 当時の状況と狙い、そしてその後起こったことについて楠社長はこう話した。

 「2017年にはiDeCoの大きな制度改正があり、翌18年からつみたてNISAが始まるなど、幅広く資産形成に対する制度的な整備がかなり進んできました。こうした背景も後押しとなり、普通の人たちに“資産形成が”受け入れられるようになってきていると感じますし、今後も広がっていくと思います。こうした資産形成に臨む普通の人たちにも生活の一部としてご利用いただくために、グループの強みを生かしたサービスの提供に力を入れてきました。楽天エコシステムとの連携を強める上で、楽天カードは楽天グループとしては欠かせない要素です。

 楽天カードは、21年12月時点で2500万枚の発行があり、グループの中心的な決済手段です。(楽天カードを使った投信積立は)グループを愛用しているお客さまには大きな効果のある施策であり、資産形成を始めるハードルを下げられていると実感しています。18年からサービスを開始しましたが、当時は十分採算がとれる見込みでした。

 ところが、近年、低報酬ファンドで報酬引き下げが何段階かあり、得られる収益が減少していました。現在、資産形成ポイントとして(得られた収益の)全額をお客さまにお返しして、さらにカード決済時にポイントを進呈している、そういう状況になっているのが現状です。つみたてNISAでは、特に低コストファンドに買い付けが集中しています。当初は、信託報酬が高いファンドも含めたトータルでのバランスを考えていましたが、信託報酬の低下により当時と状況が大きく変わってきました。

 資産形成という長い道のりにおいて、長期的かつサステナブルなサービスを提供するにはバランスが崩れてしまいました。お客さまにもご迷惑をおかけする部分がありますが、当社のビジネスを継続可能な状態にし、今後も長きにわたり、お客さまへ最良のサービスを提供していくために、正常化していかなくてはならないと考えています」

 証券会社にとって、投資信託ビジネスはさほど収益性が高いものではない。まず販売時に数パーセントの販売手数料があり、さらに投信残高に応じて販売会社手数料を得られる。これは、信託報酬という形で投資家が支払ったものを、運用会社と販売会社、そして信託銀行で分け合うものだ。当初は、こうした収益によって、最初に1%をポイント還元しても元が取れるというのが見込みだった。

 ところがわずか数年で状況は大きく変化する。販売手数料は無料の「ノーロード」がブームとなり、楽天証券も19年12月にすべての投信をノーロード化した。これで大きな収益源の一つがなくなった。

 さらに追い打ちを掛けたのがインデックス投資ブームだ。楽天証券はつみたてNISAの口座数も強みとしているが、つみたてNISAでは金融庁の意向で、基本的に株価指数に連動したインデックス型投信しか選択できない。特に投資初心者の中で、インデックス投信は大流行しており、楽天証券のユーザーもそうだ。

 では証券会社にとってインデックス投資の何が問題かというと、信託報酬が非常に小さいことだ。ファンドマネージャーが銘柄を選別して投資するアクティブファンドでは、信託報酬が1%を超えるのが普通。しかし、S&P500などの指数に連動するだけのインデックスファンドでは、ファンドマネージャーの腕も調査力も不要のため、コスト競争になりやすい。

 例えば純資産総額が1兆円を超え、代表的なインデックスファンドである三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」では、信託報酬は0.0968%。このうち販売会社にあたる楽天証券の取り分は、0.034%でしかない。ユーザーが100万円預けたとして、1年間で楽天証券に入るのはたったの340円だ。100万円の1%、1万円をポイント還元したら成り立たないのはよく分かる。

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