もちろん、この状況に気づいたのは最近ではない。実は1年前から対策を検討してきたと楠氏は言う。
「1年くらい前には検討を始めていました。ありがたいことに、クレジットカード積立はかなりの勢いでご利用いただいています。一方でこの勢いで駆け上がっていくと、さまざまなコストが積み上がり、かなり大変なことになることも予想していました。
実際、主因はこれに限りませんが、利益を出し続けているのに、自己資本規制比率は徐々に下がり始めていました。自己資本規制比率だけが理由ではありませんが、(21年の)12月には増資をしました。経営としては、大きな転換をすべきとの判断です。
一方で、(新サービスの)楽天カードからのチャージによる楽天キャッシュ(オンライン電子マネー)を介した投信積立で、還元率0.5%というのは、われわれにとって十分にサステナブルです。加えて、カード積立から電子マネーを利用した積み立てへ、数クリックで切り替えられる仕組みを用意して、お客さまの積み立てを手間なく維持できるようにしていきます。
電子マネーを使った有価証券の購入は、初めての事例になり、特許も申請しています」
経営的に、このままカード積立を継続することはできない。ユーザーへの利便性をできるだけ下げず、より経営にインパクトの小さい方法はないか。そうした中、出てきたのが電子マネーである「楽天キャッシュ」を使った投信買付という新サービスだった。
これは楽天証券にとって、カード積立の実質的な後継サービスだ。すべての投信において0.5%は還元するため、他社との比較でも「0.5%」で考えてほしいと強調する。
「この電子マネー活用でSBI証券と同等の0.5%は維持しています」
今回の発表を受けて、ネットでは「改悪」の評が出回った。これまで、楽天証券でのクレカ積み立てが「お得」なので「必須」だと説いていたインフルエンサーの中でも、手の平を返した人も多い。こうした反応をどう受け止めたのか?
「(還元されるポイント数が減るので)改悪といわれれば改悪ですが、資産形成は数十年におよぶ長い道のりです。これからも永く楽天証券とご一緒いただくために、安定した経営でなくてはいけないと強く考えていますが、前提条件が崩れてきたので、見直しをせざるを得ませんでした。
これまで、刺激の強いポイントを中心に、資産形成の口座獲得を強く意識したマーケティングを行ってきました。これからは、入り口だけでなく、生活の一部として続けていただくことを主軸とし、永いお付き合いをお客さまと一緒にやっていきます。エンゲージメントをこれまで以上にしっかりと強くしていく方向に、かじを切っていきます」
ネットの中には、この状況を受けて楽天証券の投信を競合のSBI証券に移管するという動きも見られる。さらにSBI証券側は、今が獲得のチャンスと見て、投信の「引っ越しキャンペーン」も実施している。
一方で、楽天証券の使い勝手の良さを評価する声もある。多少還元ポイントは減っても、楽天証券が使いやすいから、このまま使い続けるというユーザーたちだ。
「UIUXには、社内でも力を入れています。多くのお客さまは楽天グループを普段から利用されているので、UIUXは、楽天のほかのサービスと比較されます。当社を利用するお客さまからのUIUXへの評価は(他証券会社と比較しても)たいへん厳しいと認識しています。
楽天証券では、この10年くらいカスタマーエクスペリエンス部を作って、改善点を積み重ねてきました。最近は、UIUXのガイドラインも、使いやすさを重視して大幅改定しました。その部分をご評価いただけたことは大変ありがたく受け止めています。UIUXについては、時代やお客様の変化に伴い、常に多くの課題が生まれてくる分野です。今後もたゆまぬ改善を続けていきます」
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