クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダ・ロードスターが玄人受けする理由 マイナーチェンジで大絶賛 鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(1/2 ページ)

» 2022年02月21日 07時00分 公開
[鈴木ケンイチITmedia]

 改良された「ロードスター」が、びっくりするほど好評です。

 マツダは、2021年12月に「ロードスター」の商品改良を実施。それに合わせて2月上旬にはメディア向けの試乗会を実施しました。そのレポートを見てみれば、どれもこれも好評、というか、ほぼ絶賛の嵐といった具合。

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 さらにSNSに目を移せば、ディーラーの試乗車を体験した方からの数多くの好印象なコメントを見ることもできます。ここで特徴的だなと思うのは、「良いね」というコメントがモータージャーナリストや、長年、ロードスターに乗っているユーザーに多く見えること。つまり、「玄人」ほど、ロードスターの改良を高く評価しているのです。

 いったい、そこにはどんな理由があるのでしょうか?

 ちなみに筆者も、メディア向け試乗会に参加しました。また、個人的にも過去25年以上にわたってロードスターを愛車にしてきました。そうしたオーナー目線でいえば、今回の大絶賛の嵐の理由は、「ロードスターの魅力の本質を理解した改良であり、それをクルマやロードスターに詳しい人ほど、よく分かる」というものなのではないでしょうか。

ライト・ウェイト・スポーツカーとオープンカーの両立

 まず、「ロードスターの魅力」とは何か。それは「廉価なLWS(ライト・ウェイト・スポーツ)のオープンカーを高いレベルで実現したこと」に尽きるでしょう。

 LWS(ライト・ウェイト・スポーツカー)とは、名称の通りに、軽いスポーツカーです。軽いから加速も減速も楽で、コントロール性も良好。ただし、最高出力や最高速度、優れたラップタイム、つまり、「速さ」は二の次。「気持ちよく走れる」というのが魅力です。これにロードスターは「オープンカー」という魅力をプラス、さらに「廉価」まで与えています。

 ところが、LWS(ライト・ウェイト・スポーツカー)とオープンカーの両立は、意外と難しい課題です。

 もともと、オープンカーは重くなりがちです。現代のクルマは、モノコックボディという、薄い鉄板を箱型にすることでボディの剛性を作り出しています。箱型だから軽く硬いんですね。でも、オープンカーは屋根の部分がありません。上がないから、下側だけで剛性を確保しようとすると、補強で重くなります。例えば、クーペとオープンカーの両方がある日産の「フェアレディZ」は、オープンカーのほうが100キロほど重くなっています。共同開発されたトヨタ「スープラ」とBMW「Z4」は、オープンカーの「Z4」の方が、やはり150キロほども重くなっています。

 その難題を、ロードスターは独自のボディ構造で解決しました。「PPF(パワー・プラント・フレーム)」というアルミの骨組みで、エンジン、トランスミッション、後輪のデフを一直線につなぎます。これで剛性を確保して、その分、車体を軽くすることができたのです。軽く高い剛性のボディがあるからこそ、ロードスターは、ダイレクトで軽快に走ることができるのです。

 廉価で気持ちの良い走りをするロードスターは、日本だけでなく、世界中で大喝采を受けました。その後に登場したローバー「MGF」、BMW「Z3」、フィアット「バルケッタ」、メルセデス・ベンツ「CLK」、ホンダ「S2000」たちを置き去りにして、ロードスターは独走します。その結果、過去30年以上にわたるロードスターの長い歴史を生み出しました。

 その30年以上もの歴史を積み重ねたことにより、ロードスターは研鑽を続け、さらなる高みを目指すことができました。これほど、長期間にわたって、1台を磨き続けることのできたスポーツカーは、ほんのわずかしかありません。ここに、今回、「玄人ほど高い評価を与えた」という理由があります。マツダは、じっくりと腰を据えて、30年以上かけてロードスターを改良し続けたのです。クオリティの高い製品ができるのも当然でしょう。

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