実はこのように、当事者たちは「ブランドの根幹だから譲れない」と思っているものが、客側はそれほど重要視をしていないことが外食には多々ある。
例えば、「くら寿司」の「無添」が分かりやすい。
これは「くら寿司」独自のこだわりで、「全ての食材において、化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料を一切使用していません。それはお客様の健康を最優先したいという、私たちの基本思想」(同社Webサイト)だという。
同社がこれをどれほど大切にしているのかというのは、以下のようにネット上で批判した者に対して、プロバイダーに対して開示請求を求めて提訴したことからも明らかだ。
『何が無添なのか書かれていない。揚げ油は何なのか、シリコーンは入っているのか。果糖ブドウ糖は入っているのか。化学調味料なしと言っているだけ。イカサマくさい。本当のところを書けよ。市販の中国産ウナギのタレは必ず果糖ブドウ糖が入っている。自分に都合のよいことしか書かれていない』(産経新聞 2017年4月12日)
「社会的評価を低下させ、株価に影響を与えかねない」というくら寿司側の主張は残念ながら認められず、「公益性があるため違法性はない」と司法は判断した。だが、このバトルよりもわれわれが注目すべきは、20年1月にバラバラだったロゴを統一するとして導入した新しい「くら寿司」から、「無添」が消えていたことだ。
つまり、意図は分からないが「無添」という看板を取り下げたようにも見えるのだ。では、それで「くら寿司」がブランドイメージを失墜しただろうか。「えー、無添加じゃないの? じゃあ、もうくら寿司には行かないよ」なんて客離れは起きただろうか。
そんなことは全くなっておらず、コロナ禍においても好調さをキープしている。
つまり、「くら寿司」側からすれば、「無添」というのは食の安心のこだわりを象徴する大事な言葉だったのだが、消費者側からすればそれほど重要なものではなかったのである。もちろん、「やっぱりくら寿司は、無添加だから安心だよね」というファンもいるだろう。しかし、多くの「くら寿司」の利用者はその味や価格、サービスで選んでいるのだ。
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