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「1100万円の損失」「誰も使わなかったシステム」――失敗続きだった社長を支えた“根拠のないポジティブさ”デコボコ人生インタビュー(後編)(2/3 ページ)

» 2022年03月08日 05時00分 公開
[唐仁原俊博ITmedia]

経験してきた世界は「エキサイティング」

 逃げ道をふさがれたものの、鉛筆と紙に囲まれた現場での生活から離れることになる。テクノロジーに高い関心を持つ人々に囲まれるのは刺激的だった。起業のアイデアが浮かばなければ、エンジニアとして就職しようと考えたほどだ。

 タイムリミットまであと4カ月というとき、諸岡氏はある飲み会に参加した。ベンチャーキャピタルの500 Startups Japan(現コーラル・キャピタル)で、マネージングパートナーを務めていたジェームズ・ライニー氏と澤山陽平氏が開催していた、起業家とエンジニアをつなぐための会だった。

 その席は「東南アジアでEC事業立ち上げています」「経産省の未踏事業に採用されました」と強者ぞろい。大学時代に参加した悪夢のインターンシップを彷彿(ほうふつ)とさせた。気おされつつも、以前のように泣くわけにはいかない。

 プログラミング技術は習得中で、事業アイデアもまだ浮かんでいない。だったら、これまで自分が見てきた世界と、IT業界の違いについて話そう、と考えた。

 ワールドエンタプライズとIT業界では、使っているツールも違えば、スピード感も違う。だから今、ITの世界に身を置いているのが、めちゃくちゃ楽しい。

 この話がウケた。ITを駆使するのが当たり前の人々にとって、触れる機会のなかった世界の話は新鮮だったのだ。

 そして、澤山氏が言った。

 「あなたが経験してきた世界はエキサイティングだ! そして非効率が多い世界をITで変えることこそが僕らが求めていることなんだ」

 ノンデスクワーカーが活躍する現場を経験したこと、そしてITを学んだこと。この2つが合わさることで、ほかの誰も持っていない武器を、いつの間にか諸岡氏は手にしていたのだった。

 自分がよく知る非効率な世界をITの力で変える。そんな決意を胸に、最初に諸岡氏が考えたのは、IoTによって食品工場向けの品質管理を行う「スマートQC」というシステムだ。

 2016年12月に起業し、1カ月ほどで出来上がった試作機を早速、現場でテストした。しかし、結果は鉛筆で紙に書いたほうが早いという散々なもの。

 「現場では、自分のペースではなく、次々と流れていく工程に合わせて作業する必要があります。

 ハードもソフトも進化しているぶん、今、同じものを作ったら違う結果になるかもしれませんが、このスピードではとても利用してもらえないと意気消沈しました」(諸岡氏)

 しかも、量産するためには、最小ロットでも4000万が必要だと言われた。

創業当初の商品

 スマートQCの開発は断念せざるを得ない。次の道を探すが、ここから諸岡氏の迷走が始まる。

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