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「1100万円の損失」「誰も使わなかったシステム」――失敗続きだった社長を支えた“根拠のないポジティブさ”デコボコ人生インタビュー(後編)(3/3 ページ)

» 2022年03月08日 05時00分 公開
[唐仁原俊博ITmedia]
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いくつもの失敗を乗り越えて

 次に作ったのは現場の課題や問題点を経営陣に示す「現場のイシュー管理システム」だった。

 「誰が現場のダメなところを、わざわざ偉い人に見せたいと思うんですか」という反対の声を押し切り、ワールドエンタプライズでテストしてみるものの、本当に誰も使ってくれず、テストは1週間で終了。

 追い込まれた諸岡氏は「忘れ物管理サービスなんかどうだろう」と、ともに起業したエンジニア、三宅裕氏に声をかける。反応は芳(かんば)しくない。「食品製造業の世界を変える」という諸岡氏の言葉を信じていたのだから、当然の反応だ。

 「アイデアをいくつか持っていれば、プランAがダメなら、プランBで行こうと切り替えられます。しかし、当時の僕にはプランBがなかった。

 何かやらなきゃいけないと思いつつ、何をやったらいいのかが分からない。起業家は『これだ!』という仮説がなくなったときに潰れるんだと、振り返ってみて思いますね」(諸岡氏)

 見失った道に立ち戻ることができたのは、諸岡氏同様、現場の非効率さを解消したいと考える食品製造業者たちの応援のおかげでもある。

 しかし、何より、ワールドエンタープライズでの原体験が、諸岡氏を駆り立てた。

 あまりの非効率さに疲弊し、自分が目をかけた若手ほど、早々に見切りをつけて辞めてしまうような業界を変えたい。

 そして生まれたのが、現在のカミナシの源流である『KAMINASHI工程管理』だ。食品工場の記録管理を電子化するサービスは、18年5月のリリース直後から大企業で採用された。

 そして、19年11月、食品製造業専用のツールから、あらゆる現場で活用されるツールへと、ターゲットを拡大させる。

 市場規模や、事業者の体力を考えると、ひとつの分野に絞るのではなく、より大きな市場で勝負するべきだろうという判断だ。

起業してからの歩み

 仮説は当たり、ランディングページをオープンすると、たった1カ月でこれまでの問い合わせ件数を上回った。

 「起業してからピボットまでの3年間で、300以上の現場を見て、1000人以上に話を聞いてきましたが、すぐさま結果につながることはまずありませんでした。

 でも、そうやって、さまざまな現場の課題を把握していたことが、その後のカミナシの成長を支えてくれたと感じます」(諸岡氏)

 諸岡氏は「これまで負け続けだった」と笑いながら話す。

 「散々失敗しながら、それでも、いつかは何者かになれるはずだ、と思い続けられたのは、父の言葉のおかげかもしれません。

 父は僕たち兄弟に、『おまえたちは運がいい』と言っていました。理由を聞くと、『この両親から生まれてきた時点で、おまえらは勝ってるんだ』と(笑)。

 そういう、ある意味根拠のないポジティブさが自分のなかに残っていたから立ち上がることができました」(諸岡氏)

 今年1月に発表されたルートイングループのカミナシ導入はトップダウンで決定された。企業の経営陣も、現場にITを取り入れることに、これまでにないほど積極的になっている。

 「仮説も自信もなく、道を見失っていたときと違い、『あらゆる現場を変える』という道を、一切の迷いなく突き進めるありがたい状況になりました。

 取り残されてきたノンデスクワーカーたちにカミナシというツールを手渡すことで、これまで発揮することができなかった才能を次々と花開かせていきたいですね」(諸岡氏)

カミナシの利用イメージ

著者プロフィール

唐仁原 俊博(とうじんばら・としひろ)

ビジネス系フリーライターの活動と並行し、総務省「地域おこし協力隊」制度を利用して、人口5300の岩手県西和賀町役場に勤務。さらに休耕地活用のためヤギの飼育を開始。ライター、地域おこし協力隊、ヤギ飼いの三足のわらじに加え、日本初「ヤギがいるコワーキングスペース運営」という四足目を準備中。


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