このグレード構成では、基本的には先に挙げた順に適正速度域が上がっていく。概ね時速50キロ以下にスイートスポットを持って来た「S」、同100キロの「Sスペ・Sレザー」、ミニサーキットを前提とする「RS」となっている。
「より速くなるなら良いではないか?」と思うかもしれないが、そんなに単純な話ではない。高速域でスタビリティが高いということは、リヤタイヤの支配力が相対的に高く、車両姿勢がより安定しているということであり、シャシーの素養としては曲がりにくいことを意味する。原点回帰というコンセプトに対して、よりピュアなのはスタビもボディ補強もない「S」である。彼らは自覚的に「S」をそう設計した。
おそらくロードスターを買おうとする人たちは、そういう話を小耳に挟んだことはあると思うが、心のどこかに「装備を省かれた廉価モデル」という嫌な物言いの棘が刺さっていたのだと思う。
その結果、特に日本市場に対して、コンセプトど真ん中であるはずの「S」は、なかなか正しい評価を得られずにいた。今回、台数と期限の縛りを付けない特別仕様車として追加された990Sが目指したのは、その「S」のブランド化である。まず、軽量化に分かりやすくコストを掛けた。それが、レイズ製の鍛造ホイールの採用であり、ブレンボ製ブレーキの装備である。鍛造ホイールの採用によりホイール1本あたり800グラムの軽量化を果たした。ばね下重量の軽減が良い結果をもたらすことは誰もが知っている。
つまり「軽いのは部品を省略したからではなく、良い部品を採用したから」という文脈に差し替えたのである。それこそがこの7年間マツダを悩ませてきた不当な評価への対策であり、ここで高価なBBSではなく、コストパフォーマンスに優れるレイズを選んだことで、990Sはブランド性を高めつつも289万3000円と、300万円切りの価格を提示することができた。従来ロードスターのアップグレードホイールブランドはBBSというイメージがあったが、安易に前例主義に走らなかったところにマツダの緻密な計算を感じる。
結果は上々で、新型発売以来の売れ行きであり、狙い通り売れ筋の中心が990Sへと移ったのである。
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