KPCはこの問題を全く別角度から解決しようとした技術である。内側後輪に極めて軽くブレーキをかける。するとアシはどう動くか? 図を参照してもらうと理解が早いが、現在のクルマは制動時にリヤタイヤが浮き上がるのを防いで姿勢を安定させるために、ブレーキが掛かるとアンチリフト力が働くようにジオメトリーが設計されている。これをアンチスクォートジオメトリーと言う。
このアンチスクォートジオメトリーを、ダイアゴナルロールの適度な抑制に生かそうというのがKPCの原理だ。KPCの動作条件は横方向加速度0.3G以上。この時、内側後輪のブレーキが作動し、ブレーキの液圧で最大で0.3Mpaまでの制動を行う。といってもイメージが湧かないだろうが、マツダが何を意図しているかというと可能な限り弱い制動で機能させようと考え、「片輪ブレーキによるヨー運動の発生をできる限りさせない」ことを意図している。つまり、狙いとしては「片輪ブレーキでは曲げない」ようにしているとも言い換えられる。
なぜか? ブレーキヨーコントロールで曲げるといっても、実際はドライバーが制御しているフロントタイヤの舵角が生む横力由来のヨーと、コンピューターが制御している片輪ブレーキ由来のヨーの合計で曲がっている。どこかのタイミングでブレーキを解除すると、ヨーを作る力が舵角だけになって、その結果、急にアンダーステアに転移してしまう。それは極めて不自然だ。コンピューターがブレーキ解除の判断をするのは、当然横Gのピークを過ぎたタイミングであり、大きなヨーアシストがいらなくなるから介入をやめる。となると、舵角を戻す操作に入っていたドライバーは、ブレーキが曲げる仕事を止めた分、再度ステアリングを切り込むことなり、非常に混乱する。
だからマツダは、ブレーキでヨーを作らないように腐心した。あくまでもアンチスクォートジオメトリーを生かした、リヤサスの浮き上がり防止だけを生かせる制動力制御バランスを探ったのである。
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