基本戦略はそういうことなのだが、読者の中には「おや? キネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)の話はどう位置づけられるんだ?」という疑問が湧くだろう。
KPCとは一体なにか。それを理解するには、マツダがこの10年執着してきたダイアゴナルロールを理解する必要がある。
基本的な考え方は、コーナーで外側前輪にしっかり荷重を乗せてあげることで、曲がり易い姿勢を作ってやるところにある。ただ外側前輪が沈むということは、その分内側後輪はリフトする。対角線上でロールが起こるこの状態をダイアゴナル(斜め)ロールと呼ぶわけだ。
ただ、リヤタイヤはリヤタイヤで仕事をしているので、フロントを優先するあまり、浮き上がらせたいわけではない。初期の「S」モデルでリヤスタビライザーを外したのは、可能な限りフロントを沈めて荷重を乗せつつも、外側後輪のアクションに連結されて、内側後輪の伸び上がりアクションを助長するスタビが邪魔だったからだ。フロントにしっかり荷重を乗せつつ、リヤをジャッキアップさせないための苦肉の策である。
逆にいえば、他のグレードではフロントのダンパーを固めることで、ダイアゴナルロールを多少我慢してでも、後輪を浮かせないセッティングが取られたということである。フロント中心主義で曲げるか、リヤ荷重温存のためにフロントに多少の我慢を強いてでも安定性を取るかの作り分け。それこそが速度レンジ別のセッティングということになる。
余談を差し挟めば、安定性は基本シャシー任せであって、腕ではカバーできない。リヤの限界を超えて走らせることができないのは当たり前だ。最も極端な「RS」は、ダイアゴナルロールを最も抑制するセッティングであり、それを曲げるにはより高い速度からより強いブレーキで前荷重を乗せるしかない。同じ領域に「S」を持っていったらリヤグリップが持たない。けれども逆もまた真なりで、「RS」はツーリング速度では速度不足で荷重が呼べない。その結果、舵角に依存して曲がるしかなくなる。曲がらなくなるわけではないが、気持ち良さで劣るのだ。自分がどの速度域でベストの旋回性を求めているかで、チョイスは当然変わってくる。それがこれまでのロードスターのグレード選びだったのだ。
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