お店がやって来た! なぜ移動販売で“高い商品”が売れたのか「実証実験」の結果(3/4 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

「狭さ」を武器に

 好調の理由は、どこにあるのだろうか。大型の商業施設と違って、移動販売はクルマの中である。販売スペースはとにかく「狭い」わけだが、そのデメリットをメリットにした動きをした。スペースが「狭い」ので、たくさんの商品を並べるわけにはいかない。あれもこれもそれもといった世界ではなく、「これはどうですか?」「オススメです!」と提案できるかどうかが勝負の分かれ道になるのだ。

 一方のお客は、どのように感じるのだろうか。店内に100アイテムが並んでいれば、その中から気に入ったモノを選ばなければいけない(または買わない)。しかし、あれもいいこれもいいと迷ってしまえば、結果的に「決める」ことができずに「また、今度にしようか」となって、購入につながらないこともある。

 しかし、移動販売は先ほどお伝えしたようにアイテム数が少ないので、お客は限られたモノの中から選ばなければいけない。例えば、うな重のメニューに「松」「竹」「梅」を用意しているところがあるが、多くの人は無難な「竹」を選ぶ。こうした感じで、移動販売で買いやすい仕組みを導入していることが、いまのところ「吉」と出ているようだ。

 このほかにも、商業施設と移動販売には「違い」がいくつかある。大型の商業施設には、たくさんのお客が来店する。その中から店の前で立ち止まる人もいれば、店内に入る人もいれば、商品を手に取る人もいれば、実際に購入する人もいる。コンバージョンはどんどん下がっていって、結果的に1%ほどになるといった世界だが、移動販売は違う。

 商業施設と違って、クルマの前を歩く人はそれほど多くない。ただ、マンションの敷地内であれば、住民はクルマで販売している商品を何度も何度も目にすることになる。商品との接点が増えていくことで、心理的なハードルが下がって購買につながりやすいことが分かってきたのだ。先ほど紹介したように、商業施設の場合、1万人が来店して、実際に購入するのは1人といった感じ。一方、移動販売の場合、クルマの前を100人しか通らないが、10人が手に取って、そのうちの2人が購入するといった形である。

売り場面積の「狭さ」を武器に売り上げを伸ばす

 さて、想定以上の売り上げがあったところもあれば、その逆もある。「やっぱ、たくさんの人が集まる商業施設のほうが、ウチのお客さんには向いているよ」「移動販売もECサイトも売り上げは同じくらい。人件費などを考えると、ECサイトのほうがもうかるかな」といった不満の声が出ているのかもしれない。

 となると、移動販売から「撤退」という二文字が浮かんでくるが、どうやらそうでもないらしい。売り上げが目標の数値に達成しなかったところから「また出店したい」という声があるそうだが、その背景に何があるのだろうか。広告として活用したい、新しいエリアを調査したい、会員を獲得したい、リアル店舗やECサイトに送客したい――。こうした展開ができると考えて、移動販売の「継続」を訴えるところが多いそうだ。

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