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経営会議で毎月の決算報告をしているが、経営チームの反応が薄い……何が足りない?経営を動かすファイナンス(3/3 ページ)

» 2022年03月24日 10時30分 公開
[鷲巣大輔ITmedia]
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「ファイナンスはイノベーションへのガイド役」

 今回の質問の中で最も気がかりな部分は「聞き手である経営チームの反応が薄い」という点です。ビジネスパートナーとしてのファイナンス人材であるFP&Aはあくまでもスタッフ部門であり、意思決定を下すのはCEOであり事業本部長なのかもしれません。

 それでも的確な意思決定を下すために、質の高い議論をする材料を提供する責務がFP&Aにはあるはずです。経営チームの反応が薄く、報告をした後に議論が誘発されないのであれば、やはり提供する題材自体を見直す必要はありそうです。

 ところで、CFOとしても教育者としても、私が尊敬している昆政彦さん(元3Mジャパン社長。残念ながら2021年に逝去されました)は「ファイナンスはイノベーションへのガイド役だ」という言葉を残されています。企業統治および統制のボス的立場であるファイナンス部門は、経費削減や無駄の削除という点で、イノベーションに対して厳しい目を持つ、下手をするとイノベーションへの投資に対して抑制のプレッシャーをかける立場と誤解されることもありますが、昆さんはそういった見解に明らかにNOという答えを出しています。

 特に意思決定権者のビジネスパートナーであるFP&Aは、財務モデルを通じてそのビジネスがどのように価値を生むのか、そのメカニズムを熟知している人間です。どの要素のレバーを引けば業績が向上するのか、もしくは毀損(きそん)するのかを理解しており、事業リスクがどのあたりに潜んでいて、そのリスク要素が変動した時にアウトプットとしての財務数値にどのくらいのインパクトを与えるのかを定量的に把握している人間です。そういう立場の人間だからこそ、逆に言えば「どこまでのリスクは許容できるのか、どこまでならイノベーションのためのアクセルをぶっ放していいのか」という的確なアドバイスが可能です。

 聞き手である経営チームに対して、月次決算の報告で「現在の立ち位置がどこか」を報告することで終えてしまうのはあまりにももったいないでしょう。その先にある、どのように目標を達成するのか、そこに潜むリスクは何か、そのリスクはどこまで許容できるのかといったイシューを提示し、経営会議の参加メンバーを巻き込んで活性化した議論をファシリテートすること。すなわちビジネス構築のための「触媒」としての機能を果たすことがFP&Aの役割ではないでしょうか。

著者プロフィール

鷲巣大輔

グロービス経営大学院准教授/株式会社FP&A研究所代表取締役

一橋大学商学部卒業。米系消費財メーカーに入社後、コーポレートファイナンスからキャリアをスタートする。以後一貫してFP&A(Financial Planning & Analysis)をベースとした経営戦略策定、事業部コントロールに従事。スタートアップ企業CFO、米系消費財企業のアジア・パシフィック地区のCFOを務めた後、PEファンド投資先企業のFP&A、経営企画を担当。2021年にFP&Aの力で組織を強くすることをミッションに株式会社FP&A研究所を創立し、代表取締役を務める。2007年からグロービス経営大学院にて、コーポレートファイナンスの講義を担当する。


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