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(編集注:情報の更新に伴い、一部記述を削除しました。/2022年5月13日17時)
男性の育児休業取得率をさらに引き上げるべく、2021年6月に育児・介護休業法と健康保険法などが改正されました。本稿では、22年4月以降に予定されている、育児支援関連の法改正について、改正内容や企業に求められる対応を解説します。
主な改正内容は、下記の通りです。これらは22年4月から23年4月にかけて施行される予定です。
21年7月30日に厚生労働省が公表した「令和2年度雇用均等基本調査(※1)」によると、男性の育休の取得率は12.65%でした。この10年間でほぼ10倍となった男性の育休取得率は、順調に上昇していると考えられます。
しかしながら、女性の81.6%から比べるとまだまだ低い水準で推移しており、20年の少子化社会対策大綱では、男性の育休取得比率を25年に30%まで引き上げる目標が認定されました。現状のままではこの目標を達成するのは困難と判断され、男性の育休取得率をさらに引き上げるべく、21年6月に育児・介護休業法と健康保険法などが改正されました。
(※1)「令和2年度雇用均等基本調査」2021年7月30日/厚生労働省
20年10月、労働政策に関する重要事項の調査審議を行う労働政策審議会において、委員より以下の旨の発言がありました。
「育休を取得できなかった社員の意見を聞くと、職場が育休を取得できるような環境ではなかった、そのような制度があることを知らなった、知っていたら取得したかったという意見が多かった」
また三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 労働者調査結果の概要」によれば、男性の正社員が出産・育児を目的として休暇・休業制度を利用しなかった理由は「会社で育休制度が整備されていなかったから」「収入を減らしたくなかったから」「職場が育休制度を取得しづらい雰囲気だったから」といった回答が多い結果となっています。
これらのことから男性の育休取得を推進するために、「育休を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」が行われることになりました。具体的には以下の2点です。
また、この2つが適切に行われない場合には、企業名が公表されることも今回の改正で追加されています。
上記の改正を含め、22年4月以降の改正内容をご紹介します。
以前より有期雇用労働者の育休及び介護休業の取得要件には「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件がありましたが、この要件が撤廃されます。
有期雇用労働者の育休に関しては「1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない」という要件のみになり、無期雇用労働者と同様の取り扱いになります。
ただし「引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は労使協定の締結により除外可」という要件は継続されます。育休給付についても同様に緩和されます。
配偶者の妊娠が分かったときに、職場環境が原因で従業員が育休の申し出をしないことを防ぐために、所属する従業員全般に向けて育休の制度を周知することが義務付けられました。「男性が育休を取得するなんて前例がない」「代替の人員がいない」「そもそも男性が育休を取得できる制度の存在を知らなかった」といった理由で育休を取らない、ということがないように定められたものです。
具体的には以下の4つの中から1つ以上の施策を実施する必要があります。
また、法改正と同時に変更される指針では「周知は可能な限り複数の実施が望ましい」こと及び「育休の期間を1カ月以上取得することを希望する場合にも、希望した期間を取得できるように配慮する」ことが追加されています。
従業員本人または配偶者の出産予定について申し出を受けたら、企業は「その社員に育休の制度などについて説明する」こと、また「出産後に育休の制度を利用するかどうか社員の意向を確認する」ことが義務付けられました。
「育休の制度、もしくは取得するための手続きが分からないから育休の申し出をしない」というケースを防ぐための変更となります。
指針では、本人に個別周知するときに育休の取得を控えさせるような説明はこの義務を実施したとは認められないこと、育休の取得の意向確認は、働きかけを行えばよいことが追加されています。
後者の「働きかけを行えばよい」は、働きかけを行っても、意思表示をしない従業員もいるでしょう。そういった社員にまで意向を把握することまでを求めているのではなく、常識的な範囲での働きかけを行えば法で定めた義務を実施したと認められます。
また、対象となる従業員については、育休を取得する可能性のある従業員全てを対象にするのではなく、プライバシーを配慮して、本人から申し出のあった従業員を対象とするとされました。なんらかの理由で本人が申し出をしなかった場合には、個別周知、意向確認は義務とされないこととなります。
厚生労働省は、男性の育休取得を促進するための「イクメンプロジェクト(※2)」という取り組みを推進しています。その中で、企業のトップ自らが部下や同僚などの育児や介護・ワークライフバランスに配慮・理解のある上司として宣言を行う「イクボス宣言」の取り組みも行われています。21年9月〜11月に実施した当社アンケートで、人事部門の方に「会社のトップが男性社員の育休取得の意義、育児に参加する効果を含めたメッセージを定期的に発信しているか」を問うと、8割以上の企業で「特にそのような発信はしていない」との回答を得ました。今回の法改正のタイミングで、トップからのメッセージ発信を検討することも男性育休取得推進の一つの取り組みになり得るかもしれません。
(※2)厚生労働省委託事業「イクメンプロジェクト」
新たに「出生時育児休業(産後パパ育休)」(いわゆる男性版産休)が設けられます。概要は以下の通りです。
子の出生から8週の間に合計4週間分(2回まで分割可能)
休業開始予定日の2週間前まで(通常の育休は1カ月前まで)
一般的に産後6〜8週間は、母体の回復に全力で努める必要があるとされています。出生時育休(産後パパ育休)は、配偶者の協力が必要不可欠な期間に取得できる休業制度ということです。
実は、同期間中に取得できる「パパ休暇」という制度がこれまでも存在していましたが、これは廃止されます。置き換えとなる今回の出生時育休(産後パパ育休)は、期間を2回まで分割できます。そのため、一層取得のしやすさが考慮されているものと考えます。
また、通常の育休と同様に雇用保険からの給付金も支給されます。
これまでの育休は原則として分割取得はできませんでしたが、産後パパ育休・育休においては分割して2回の取得が可能になります。
現行制度では育休中は原則就業不可でしたが、産後パパ育休では労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中の就業が可能です。ただし、休業中の就業日数には上限があるため留意が必要です。
要件を満たし1歳以降も育休を継続する場合、これまで育休開始日は1歳、1歳半の時点に限定されていましたが、この育休開始日が柔軟化されました。
1歳を過ぎたタイミングからでも育休を取得できるようになるため、1歳〜1歳半または1歳半〜2歳の間の育休について、夫婦で途中交代も可能になります。この場合の育休でも社会保険料の免除が適用され、育児休業給付金が支給されます。
国家公務員では、男性職員の育休取得率において、19年度の16.4%から20年度の29.0%(※3)と大幅に取得率が上昇しています。また、20年4月〜6月に子どもが生まれた男性職員のうち育児に伴う休暇、休業を取得した職員は99.0%(2900人)、平均の取得日数は50日、1か月以上休暇・休業を取得した職員は88.8%と発表されています(※3)。国家公務員の男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得促進の施策は、民間企業の男性の育休の取得推進にも有効だと考えられます。参考にしてみてください。
(※3)男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得推進/内閣官房
現行の育休制度での月の社会保険料の免除要件は「その月の末日に育休を取得しているか否か」でした。そのため、短期間の育休取得の場合、月末をまたぐか否かで保険料免除されるかが決まるという不公平が発生していました。
改正により給与は、育休期間の開始日、復帰日が同月にある場合はその期間が14日以上であれば免除。賞与は、育休期間が1カ月を越える場合のみ免除となります。
従業員1000人超の企業は、育休などの取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。公表内容は「男性の育休などの取得率」または「育休などと育児目的休暇の取得率」です。
5年前は、男性の育休の取得率は2.65%、前年より0.3%増と女性の取得率からみれば次元の違う数字での推移でした。それがこの5年間で5倍の12.65%まで引きあがり、これからも増加していくと見込まれます。
日本では習慣的に女性に育児・家事が偏重してきたため、少なくとも男性の育児・家事への参加が同等になるまでは、特に男性の育休を推進する施策は必要なものと考えられます。
井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー
神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。
大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1200法人グループへの導入実績を持つ。
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