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三菱地所にいながら「瞑想施設」を立ち上げた若手社員の描いた世界働く人の日常には「余白」が必要(1/3 ページ)

» 2022年03月28日 05時00分 公開
[小島和子ITmedia]

 三菱地所の新事業提案制度から生まれたメディテーションスタジオ「Medicha(メディーチャ)」。前編【三菱地所の30代社長がつくった「瞑想プログラム」がコロナ禍で予約殺到なワケ】ではコロナ禍で同スタジオを貸し切り営業に変更してから法人需要が高まるなど事業環境の変化をお伝えした。

 では、三菱地所という大企業の中で、同スタジオはどのように構想され立ち上がったのか。後編ではその経緯について創業者の山脇一恵さんと長嶋彩加さんに聞いた。

(左)長嶋彩加(ながしま・あやか) Medicha代表取締役兼Co-Founder。2013年三菱地所株式会社入社。IR、広報、大手町・丸の内・有楽町エリアのオープンイノベーション推進などを担当。19年4月より現職。(右)山脇一恵(やまわき・かずえ)Medicha代表取締役兼Co-Founder。2013年三菱地所株式会社入社。大手町・丸の内・有楽町地区のエリアマネジメントなどを行う都市計画事業室、開発推進部、ビル営業を担当。19年4月より現職(以下撮影、関口達朗)

目の前のことに追われて、大切な何かを犠牲にしていないか

 絶対的な答えはない中で、自分は何をしたいか。事業を通して、どういう世界を表現したいか。そうした原点に立ち返る「余白の時間」を持つため、長嶋さんと山脇さんは自身が月1回以上はMedichaのメディテーション(瞑想)を体験し頭の中をクリアにしているという。

 しかし、二人はメディテーションにずっと親しんできたわけではない。むしろ同スタジオが立ち上がるまでは余白の時間や丁寧な生活とは最も遠いところにいた。

 Medichaの原案が三菱地所の新事業提案制度に出されたのは2017年8月のこと。同制度は09年から始まったものだが、17年は不動産以外の事業の募集と、提案者が代表取締役を担うように変更した初めての年だった。つまり、Medichaは三菱地所にとっても子会社化案件で不動産以外の事業の第一号となる。

 「私と山脇は新卒同期で、接点は多くなかったものの、社会課題解決型ビジネスに惹(ひ)かれるなど、何か一緒にできたらという感覚をお互いに持っていました。そのような中で、新事業提案制度の募集を知った山脇が一緒にやろうと連絡をくれたのがMedichaのはじまりです」(長嶋さん)

 事業提案の際に二人の根底にあったのが「自分たちはどんなライフスタイルを実現したいか」という問題意識だ。当時二人は入社5年目の27歳。三菱地所という大企業でスケールの大きな案件に関わりながら少しずつ任される領域も広がり、仕事の面白さにのめり込んでいた時期だった。しかし、ふと立ち止まると「これでいいのか」と思うことも増えていた。

 「仕事もすごく楽しかったし、プライベートも充実していました。ただ、朝ごはんを食べる時間がなかったり、電車に駆け込むために朝から駅まで走ったり、家に帰ったら寝るだけだったり……。仕事のやりがいやプライベートなど目の前のことに一生懸命になるうちに、日々の暮らしや家族との大切な時間などを知らず知らずのうちに犠牲にしてしまっていました」(長嶋さん)

 それは山脇さんも同じだった。

 「何か達成する為には他の何かを犠牲にするしかないという勝手な思い込みを抱いていました。でも、もう少し肩の力を抜いて、自分らしく仕事・夢・家族を大切にするライフスタイルもあるはずだと考えていました」(山脇さん)

 仕事は楽しく毎日が過ぎていくが、家族のことや自分の夢に向かう時間を脇に置くのでいいのか。では、それらを仕事と切り分けてコントロールするにはどうすればいいか。そんな話を二人で繰り返す中で浮かび上がったのが「自分と向き合う、丁寧に生きる」という言葉。後にこれが「自分に余白をつくる」というMedichaのコンセプトへと育っていく。

日常の中で「余白」を感じられる、お茶を飲む時間はプログラムの最後に設けられている
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