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霞が関でも導入 民間企業がよく使う「若手の声を聞く作戦」に潜む欺瞞その取り組み、「裏」があるかも(2/4 ページ)

» 2022年03月31日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 しかし残念なことに、多くの会社では「若手の声を聞く作戦」が実を結びません。意見を聞いた経営者や管理職からは、よくこんなせりふが聞こえてきます。

 「貴重な意見をありがとう。検討しておくよ。他にもあったら遠慮なく伝えてほしい」

 その言葉を信じて、若手社員たちは意見を思い付くたびに伝えます。そして、経営者や管理職と話せる機会が増え、これまでより距離が身近に感じられるようになっていきます。

 しかしながら、「検討しておく」といわれてから明確な返答をもらえず、一向に事態は進展しないものの、意見を聞いてもらっていることに一定の満足感があるため、若手社員たちの情熱は次第に冷めていきます。

 一方、意見を聞いた経営者や管理職たちは「詰めが甘い」「頭でっかちになっていて現実性がない」「もっと思い切った意見がほしいのに物足りない」などと、上層部だけが出席する会議の中で若手社員が出した意見の至らない点をあげつらいます。

 やがて月日は流れ、業務に忙殺される日々を過ごす中で、結局は何も変わらないまま、会社が若手層に意見を聞いたこと自体が社内から忘れ去られていきます。若手層に意見を求めたのは会社の方なのに、なぜこのような事態に陥ってしまうのでしょうか。

若手の声を聞く「裏」の理由

 実は、「検討しておくよ」と回答した時点で、会社側の真の目的はおおむね達成されていた可能性があります。会社が「若手の声を聞く作戦」を実施する背景には、先ほどの3点とは異なる裏の目的が隠されていることがよくあるからです。こちらも3点挙げます。

 裏の目的の1つ目は、不満のガス抜きです。会社の意向と社員の希望とのズレが大きくなると、社内に不満が蓄積していきます。会社は若手層の離脱を防ぐために意見を聞く場を設け、会社が変わろうとする姿勢を示すことで、たまり続ける不満が爆発するのを防ぎます。会社としては意見を聞いただけである程度のガス抜きはできるので、意見を聞いてからどう対応するかまでは重視しません。

 2つ目は、対外的イメージの向上です。「若手の声を聞く作戦」を実施する会社は、風通しがよく、社員を大切にしている印象を外部に与えます。株主や顧客、求職者など会社を外側から見ている人たちのイメージが向上すれば目的は達成されるので、必ずしも社内の風通しを改善するための取り組みを具体的に進める必要まではありません。

 最後は、不満が拡大していくことの防止です。社内で何らかの不満が既に渦巻いていると、会社の悪口が社員の間で繰り返され、不満の輪が広がっていきます。不満の拡大を止めたくても長年不満を蓄積してきたベテラン層の説得は容易ではありません。会社としてくみしやすいのは、新鮮な感覚を残している若手社員たちです。意見を聞く機会を設けてコミュニケーションをとりながら懐柔し、若手社員たちがベテラン社員たちの言葉に耳を傾けにくい雰囲気さえつくれば目的は達成されます。

 同じ「若手の声を聞く作戦」でも、先に挙げた目的の場合は、会社を変えることにつながります。しかし、裏の目的の方は、会社を変えないまま維持することが前提です。そのため、若手の意見を聞く機会を設けてコミュニケーションがとれた時点で、目的はおおむね達成されているのです。

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