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霞が関でも導入 民間企業がよく使う「若手の声を聞く作戦」に潜む欺瞞その取り組み、「裏」があるかも(3/4 ページ)

» 2022年03月31日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 これまで会社と働き手の力関係は、圧倒的に会社優位でした。会社の意向と働き手の志向にズレが生じた場合も会社側は変わる必要がなく、その都度、働き手に認識を変えさせて対処してきました。働き手は、会社が変わるように見せかけるだけのパフォーマンス主義だと気付いていても、会社の意向には逆らえず、黙って歩調を合わせざるを得ませんでした。

 しかし、そんな会社優位の運営手法が今後も通用するかは分かりません。会社の意向と自分の志向とにズレが生じると、働き手は会社にしがみつかず、離れていく兆候が既に見られます。自己都合退職者が増え続けていると報じられたJR北海道や、50歳以上の幹部社員を対象とした早期退職制度に過去最大規模の3031人が応募した富士通などの事例がそうです。また、冒頭で紹介した記事にある、若手国家公務員の中途退職もその一つだといえます。

 会社と働き手の力関係が徐々にフラットに近づいている背景に、少子化による人口減少が挙げられます。しかし、それよりもっと急激なスピードで直接的に影響を及ぼしているのが、働き手自身の中で生じている意識の変化です。大きく分けて5つあります。

働き手の「5つの意識変化」

 まず、転職への抵抗感が薄れていることです。新卒入社した会社でコツコツと働き続け、年功序列で勤続年数とともに給料を上げながら定年まで勤め上げる――という典型的なキャリアに縛られない働き手が増えています。今や新卒1年目から転職を視野に入れている人は珍しくありません。

 次に、仕事の選択肢が拡大していることです。長い間、仕事といえば正社員と呼ばれる雇用形態のみが正当な働き方だと見なされてきました。そのため、合法であっても正社員以外の働き方は「非正規」と呼ばれます。しかし、今や非正規と呼ばれる働き方を選ぶ人が4割もいます。中には正社員を希望しているものの、それが叶わず非正規を選ばざるを得ない「不本意型」が相当数いることは問題です。しかし、会社から強い束縛を受ける正社員という働き方を拒み、自ら望んで非正規で働いている本意型の人たちもたくさんいます。

 一言で「非正規」とくくられる働き方も、今や多種多様です。7割はパート・アルバイトですが、契約や嘱託社員、派遣社員のような特殊な雇用形態もあります。また、ウーバーイーツなどに代表されるギグワークも増えてきました。働き手の志向性が多様化していくのに合わせて、仕事の選択肢がどんどん拡大し、正社員だけに縛られない考え方が広がってきています。

 3つ目の変化は副業・兼業の促進です。今や副業・兼業は原則容認が主流で、これからのキャリア形成は、今所属する会社の中で昇格を目指す一本道のルートに限られなくなりました。副業・兼業などを交えながら複数の可能性を追求するマルチキャリアの時代へと移り変わりつつあります。

 4つ目は共働き意識の浸透です。今や全世帯の3分の2が共働きですが、家計を担うバランスは多くの世帯で「夫が主、妻が補助」です。しかし、厚生労働省の令和3(2021)年賃金構造基本統計調査によると、女性一般労働者の21年における月額賃金は01年比で3万1200円増加しています。一方で男性は3500円減少しており、男女間の賃金格差は縮小傾向です。また、政府も会社も女性活躍推進や女性管理職比率向上に力を入れています。社会の流れは、「夫が働き、妻は家庭」という図式から、家計も家事育児も、夫婦が協力し合ってともに担う方向へと進んでいます。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 5つ目は、働き方へのこだわりです。「週3日だけ働きたい」といったこだわりを持って仕事を探す層は、仕事と家庭の両立を希望する主婦層だけに限らなくなってきています。高給獲得より、ほどほどの給料でもやりがいや社会的意義がある仕事を優先したり、副業・兼業やワーケーションを希望したりと、働き方へのこだわり方も多様化しています。

 ここに挙げたような働き手側の急激な意識変化を踏まえると、会社優位の運営手法には限界があることが見えてくるのです。

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