「外泊すると家賃が下がる」物件は定着するのか 都市部で広がる“つぎの住処”週末に「へえ」な話(2/4 ページ)

» 2022年04月03日 07時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

最大の壁は「社内での説得」

 ホテルのようでホテルではなく、マンションのようでマンションでもない――。これまで聞いたことがないような物件を、なぜ東急は手掛けるようになったのだろうか。事業を担当している小池和希さんに聞いたところ、アイデアは「コロナ前」から考えていたという。

 民泊のようなビジネスを展開することはできないか。ライフスタイルが多様化している中で、家をシェアリングすることはできないか。こうしたことを検討していく中で、新型コロナの感染が広がっていく。海外からの観光客がやって来ない、テレワークを導入する人が増える。世の中が変化していく中で、スモールスタートの形で事業を始めたのだ。

仕事場として使えるような部屋も

 このように書くと、話はとんとん拍子に進んで、うまくいっているのねと思われたかもしれないが、事業化までの道のりは平たんではなかった。最大の壁は「社内での説得」である。このビジネスをひとことで言えば「自分の部屋を貸し出すこと」だ。聞き慣れない言葉を耳にした人は、どのように感じるだろうか。意思決定をする世代の人たちにとっては、すんなりと受け入れることができない話だったのかもしれない。

 しかし、それも仕方がない。「マイホームを持ちたい。郊外に新築の一戸建てを買うのが夢だ」「高層マンションに住みたい。そのために、お金を稼ぐぞー」といった考えで、靴底を減らしながら仕事をしていたのに、「自分の部屋をちょっとだけ貸すだけですよ。それで節約できるのですから」なんて言われても、「いやいやいや、そんなニーズはないよ」となって、ハンコを押さない気持ちもよく分かる。いや、年齢だけの問題ではなく、若い人たちの間でも「豊洲の高層マンションに住みたい」「いや、オレは鎌倉で家を買って、のんびり暮らしたい」といった人も多いはずだ。

 一部のとんがった人たちにしかウケそうもないこのプロジェクトは、どのようにして進んだのだろうか。意思決定をする人たちが次に考えたことは「で、市場規模はどのくらいあるの?」である。一定数の割合で「2拠点生活を送りたい」という人たちはいるはずだが、事業を継続できるかどうかとなると話はまた別である。

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