勃発・EV戦国時代 勝つのは「提携」のソニー・ホンダか 「ケイレツ+買収」のトヨタか 「水平分業」のアップルか意外と難しい「業務提携」だが……(2/3 ページ)

» 2022年04月04日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 当時はかたやビール、かたやウイスキーという強みを持ち、ノンアルコールのビバレッジ部門でもシェアを分け合う好敵手であり、「最強の飲料メーカーの誕生」と大騒ぎなりました。しかし、キリンは財閥系サラリーマントップが率いる典型的な官僚組織、サントリーは佐治家という代々創業家によるオーナー経営という、いってみれば水と油のような関係であり、理由はもろもろ取り沙汰されましたが、結局は企業文化の違いが統合前に破談に至らしめたと断言できる一件でした。

 そう考えると、ソニーの提携相手にトヨタというのはそもそも難しいことになります。

 トヨタはオーナー家が大株主ではないものの厳然と存在し、現トップの豊田章男社長もオーナー家の人物です。企業文化形成において地域性というものも重要な要素ですが、トヨタは愛知県を本拠地とし尾張商人の超堅実なビジネス姿勢がその根底に脈々と流れています。カンバン方式といわれるトヨタ式の在庫・ライン管理はその堅実さの極みであり、企業文化のなせる業に他ありません。東京を発祥地とし失敗を恐れぬチャレンジングな文化を旨とするソニーとでは、やはり相いれない部分の方が目に付いてしまうわけなのです。

 ホンダとソニーの業務提携では、ホンダが車体設計・量産体制確立のノウハウと世界の販売網をEV事業で生かし、ソニーは得意とする画像センサーや通信技術、エンターテインメントのノウハウを来たるべきEV設計に生かす、という枠組みです。EV事業の本格化に向けて、お互いの強みを生かして弱みを補完できる関係が確立される、とのイメージが成り立つわけです。この組み合わせで開発されるEVは、現在EVの将来像に最も近いところにあるとされる米テスラの高級モデルにも十分対抗できる存在として、25年に発売される第1号モデルに今から大いに期待感が高まるところです。

左から、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEO、本田技研工業の三部敏宏社長兼CEO(出所:両社記者会見のライブ動画)

 そこで気になるのは業界トップ、トヨタの動向です。

 もしトヨタがソニーと組んでいたら、最強のジャパンEVチームが誕生していたのではないかと思う半面、前述のごとく両社の企業文化の違いはいかんともしがたく、仮に提携を組んでもキリンとサントリーのように空中分解する姿が浮かんでもきます。パナソニックとの対等提携がいつの間にか、電池事業の吸収という支配関係に変質していることもしかり、常にピラミッドの頂点にあるトヨタはマウントポジションを取らなければ気の済まない「殿様体質」であり、対等提携には不向きなのです。EV分野では周回遅れ気味の同社にとって、「提携→解消」のような遠回りはこれ以上できないことだけは確かです。

 ここ1〜2年、世界的なSDGs推進の流れを受けた各国のカーボンニュートラルに対する積極姿勢への転換を受けて、EV化は加速度的にその流れを強めてきました。これまでハイブリッド車をメインに据え、「EVは選択肢の一つ」的に扱ってきたトヨタもさすがにこうした流れを無視できず、30年にEVのみで年350万台を売る計画を発表しました。しかし350万台はトヨタの全世界における自動車販売の3分の1にすぎず、まだまだEV戦略は本腰には至っていない、そんな状況にも思えてしまいます。

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