勃発・EV戦国時代 勝つのは「提携」のソニー・ホンダか 「ケイレツ+買収」のトヨタか 「水平分業」のアップルか意外と難しい「業務提携」だが……(3/3 ページ)

» 2022年04月04日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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 実際、テレビCMでも流れているEVへの積極姿勢を表明した発表会で、豊田章男社長は力強く「トヨタは、BEV(バッテリー電気自動車)も本気、FCV(燃料電池自動車)も本気、PHV(プラグインハイブリッド)も本気」と発言しています。豊田社長の言葉によれば、そのココロは、現段階で自動車のカーボンニュートラル対応の解をEVに決め打ちすることなく、まだ見ぬ将来に向けて選択の余地を残すのだ、ということでしょう。

 そう聞くと、何か日本政府の方針でも代弁するかのようなものすごく聞こえのいい話なのですが、トヨタが世界の大手自動車メーカーの潮流に従わずEV一辺倒に走らない裏にあるのは、止むに止まれぬ苦しい事情があります。

 それはこれまでトヨタを鉄壁のグループとして支えてきた「ケイレツ」の存在です。業界的に00年代以降、ケイレツは解消の方向にありますが、トヨタはむしろデンソーやアイシン精機等を中心としてグループ内連携の強化を図りつつハイブリッド車向けに基幹部品の開発製造を移管する動きもとっており、急激なEV傾倒戦略による垂直分業崩壊リスクを念頭に置いているからに他なりません。

 それができるのも、トヨタの「トヨタ銀行」と呼ばれる潤沢な自己資金あればこそ。トヨタは全方位戦略を掲げつつも、EV開発には30年までに4兆円の予算を計上しており、これは同業他社と比べてそん色のない開発費であるといえます。EVは「走るスマホ」といわれるように、走行だけではないコネクテッドカーとしての側面が、競争に勝ち残る重要なポイントを占めてきます。その部分が重要であるからこそ、ソニーやアップルや鴻海精密がこぞって参入を決めているわけなのです。

 いかにトヨタといえども、自社やそのケイレツにコネクテッドカー部分開発において、ソニーやアップルに匹敵するほどのIT技術やエンタメ領域に及ぶノウハウがあるとは思えません。かつその企業文化において大企業同士の提携を苦手とする「殿様体質」である以上、異業種との業務提携による開発は難しいわけで、4兆円のEV開発費の大きな部分はIT企業の買収に充てられるのではないかと思えます。それによってトヨタが例え今カーボンニュートラル対応でEV一辺倒シフトをしなくとも、業界におけるEV化の流れの中でも主役を張り続けられる自信があると思えるからです。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 ついでに申し上げれば、いまだ提携話も含めてEV事業に関して大きな動きが公表されないアップルもまた、提携を苦手とする「殿様体質」においてトヨタ以上のものがあります。彼らがもくろむ“アップルカー”製造に向けたIT領域からの水平分業構築に関しても、スマホ製造と同じく提携ではないアップル支配の王国を形作りつつ、必要に応じてEV化の流れの中で体力的に弱った自動車産業を使い捨てにしながら発展形を模索するのではないかと思います。

 業務提携か、ケイレツ+買収か、あるいは王国支配の水平分業か――。ホンダとソニーの業務提携発表は、トヨタはもちろん先行するEV専業メーカーを含めた他陣営を大きく刺激したことは間違いありません。まさに号砲一発、EV戦争の火ぶたはいよいよ切って落とされた、といえるでしょう。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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